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わかめ祭が3倍楽しみになる神水わかめの話

「リリリリリーン!」

5月のとある休日の朝。

午前6時に携帯が鳴り、

「今日は白旗あがってるよー。予定通り8時過ぎに!」

との連絡をいただく。

白い旗の日

そうです。今日は赤い旗ではなく貴重な白い旗の日。

これを見てすぐにピンときた方はかなり通な方。

決して敗北宣言の白旗ではありません。

実はこれは過去の私の記事に度々登場している“田結(たい)”

という所にある旗。

 

過去の田結に関する記事はこちらから。

海のそばで暮らすということ・後編

湿地は天然アドベンチャーワールド

豊岡の美味しいお魚レシピvol.4~生わかめ編~

私の好きな癒しの田結湿地

こうしてみると過去の記事に田結がたくさん登場していてびっくり。

田結は豊岡市内を流れる円山川の河口、

そして日本海にも面している所に位置する

兵庫県の北の端、そして京都府のすぐ隣にある村。

通称“てゃ~”。

 

対岸の右手には“松葉がに”で有名な津居山漁港、

左手にはキャンプ場も併設されている海水浴場気比の浜が見渡せます。

そんな田結では春になると毎日赤か白の旗があがります。

その白い旗の意味とは…。

そう、この大量にぶら下がった洗濯ばさみが活躍する日!

ここまでくるともうお分かりでしょうか。

神水(かんずい)わかめ!

神水わかめです。

白い旗の日は、田結のわかめ漁師さんたちが

一斉に船を出してわかめの漁に繰り出します。

朝の6時頃、この旗の付近に集まり、

天候や波の高さなどを考慮してその日に船を出すか出さないかを相談します。

漁が無理だと判断した日は赤い旗。

事故があってはいけないので、船を出す日は天候が穏やかな日に限っており、

皆で一緒に出ると決めているそうです。

村の中心部にあるこの旗は、漁に出るか出ないか…という

漁師さんたちへの合図だったのです。

実はこの日の朝、白い旗があがっていたら漁の後で見学を

させていただくことになっていました。

そして当日はご覧の通りの快晴!

朝6時の時点で白い旗があがっていたので、

近所の方から電話で連絡をいただきました。

絶好のわかめ漁日和ということで、船が帰ってくる午前8時過ぎに田結へ行き

見学させていただくことになりました。

わかめ漁日和!

わかめ干し場で待っていると次々と船が帰ってきました。

昔は“櫓(ろ)”を使い、手漕ぎの船に乗って

約1キロ離れた漁場で漁をしていたそうですが、

いまでは電動となり、漁の範囲もずいぶん広くなったそう。

たくさん採れました!

こちらの方は1時間ほどで大きなカゴにたっぷり2杯分のわかめを

採ってこられました。

漁は1人で行うため、この箱メガネを口にくわえて海中を覗き、

片手で船を操縦しつつ、もう片方の手でわかめを採ります。

わかめをカットするのに使うのはこの長い道具。

思っていたより刃先は細くシャープです。

太いと波に持っていかれてしまうため、細いとのこと。

揺れている船の上から海底に揺らめくわかめを見ていると

慣れた方でも時に酔いそうになることもあるんだとか。

こちらは艫櫂(ともがい)という道具。

通称“ともぎゃー”。

船の操作に使うそうです。

すごいの見つけた!

本来漁ではわかめの茎の部分を切って採るそうですが、

たまたま岩にくっついたままのわかめを見つけました!

海の中のわかめはこんな感じで生息しています。

岩にくっついている一番下のひらひら部分がメカブ。

刻むとヌルヌルネバネバ食感で美味しいところ。

その上の真っ直ぐな部分が茎わかめ。

こちらも刻んで炊いたりすると美味しいごはんのおともに。

そして更にその上のひらひら部分が生わかめ。

 

こちらが漁で採ってこられた普通の状態。

わかめが水中でゆらゆら揺れていると、カットする茎の部分が見えないので、

波がきて上部が波にさらわれた瞬間に茎の位置を見極め

バサっと一気に切るのだとか。

それも操縦しながら、箱メガネをくわえながらの作業です。

かっこいい‼

アカモクもありました!

アカモクも採っておられました。

花粉症の予防にもなるというアカモク。

刻むとネバネバ食感になる、私の大好きな海藻の1つです。

この袋状のものが生殖器床(せいしょくきしょう)。

これがネバネバの元なんだとか。

太くて短いものが雌。

細くて長いのが雄なんだそうです。

わかめ干し場にはこのようなリヤカーや一輪車が待機していて、

船から上がったわかめをすぐ隣の干し場へと運びます。

家族の方々もわかめ干しを手伝いに出てこられます。

茎の部分が長いものは茎をカットしてから干します。

ここでカットされた茎が茎わかめ。

初体験わかめ干し

この辺りの小学校では、社会の授業でわかめ干しを体験させてもらえますが、私は初体験。

ひとつひとつ手作業で洗濯ばさみに吊るしていきます。

葉先を下に、カットした茎の部分を上にして挟みます。

洗濯ばさみにもこだわりが。

こちらの洗濯ばさみ、よく見ると何かに似ていませんか?

その名も“シャークピンチ”。

サメがわかめをくわえているように見えます。

北海道で昆布を干すのにも使われているそうですが、

ギザギザがわかめをしっかりと挟んでくれるので良いそうです。

干した後は、早くきれいに乾くように

茎の部分にひとつひとつ先まで切り目を入れていきます。

全て手作業。

そしてあっという間にわかめのカーテンが完成!

爽やかな5月のひんやりとした風と共に、わかめがサーッと揺れて

潮気をたっぷり含んだ磯の香が辺り一面に漂った瞬間、

思わず「幸せー‼」と叫んでしまいました。

「いつも見てたらそうは思わん!」と即、皆さんに突っ込まれましたが…。

確かに、この作業だけではまだまだ終わりではないのです。

 

この後、お天気とにらめっこしながら作業は続きます。

順調に乾くと午後にはわかめを取り入れて、次は並べて干します。

もし途中で雨が降って来た場合は大急ぎで取り外し、

家の中でストーブを焚いて室内で干すこともあるそうです。

そして1日では干しあがらず、翌日もまた干すのだとか。

皆さんの並々ならぬ努力が垣間見えます。

干しあがると、今度はサイズを揃えて袋詰めの作業。

時には夜なべしての作業になることも。

今まで何気なく食べていたわかめですが、大変な労力の賜物でした。

軒先ではこんな光景をたくさん見かけました。

 

今回いろいろと神水わかめのことを教えてくださったのは

田結在住のこちらのスペシャリスト。

いろんなこだわりをもってわかめの漁を行っておられます。

名前も顔出しもNGということで、勝手にスペシャリストとお呼びします。

神水わかめが美味しい理由も教えてくださいました。

神水わかめが美味しいわけ

生わかめは日本各地、いろんなところで採れますが、

神水わかめはどこか一味違うということで、

平成16年に日本食品機能分析研究所で科学的に分析をしていただいたそうです。

その結果がこちら。

同じ但馬地域で採れる他の生わかめと比較しても、

旨味成分である「グルタミン酸」と甘味を感じる「アラニン」が

他の産地のものより群を抜いて多いことが分かったそうです。

森は海の恋人

神水わかめが美味しい理由は、

「“森は海の恋人”という言葉に集約されている。」

とスペシャリストが教えてくれました。

この写真は日本海を背に、円山川の河口付近で撮った写真。

右手に見えるのが城崎温泉。

この写真を見るとその言葉の意味が良く分かります。

“森で培われる豊かな滋養分が水を通じて川から海に流れこみ、

海の豊かさとなって海の生き物を育てる”のだそうです。

神水わかめが育つ場所は、山々からの滋養分をたっぷり含んだ

圧倒的な水量の円山川の水が流れ込む場所。

それが美味しさの理由だったのです。

“森は海の恋人”という言葉は宮城県の気仙沼で

カキやホタテの養殖をされていた方の言葉だそうです。

その方は海の生き物を守るため、湾に流れる川の上流にある山で

植樹活動をされ、その後「漁師が森に木を植える」という植樹運動が

各地でも広がっていったそうです。

 

田結のわかめ漁

伝統的に受け継がれてきた田結のわかめ漁。

その昔は約50人ほどの漁師さんがおられたそうですが、

現在わかめを採っておられるのは約8人。

わかめは11月に水温が20度以下でないとうまく発芽が進まないらしく、

温暖化の影響も受け、採れる量も少しずつ減ってきているそうです。

難しいかもしれませんが、なんとかこれからも守り続けて欲しいと願うばかり。

帰りにスペシャリストのご自宅でこんなものをご馳走になりました。

アカモクとメカブのネバネバポン酢。

細かくカットされていて、こんなにネバるんです。

ズルズルっと食べれてとっても美味しい‼

ちなみにこのミンチを作る機械でアカモクとメカブをカットされたんだとか。

かつては手動だったものをこのために電動に改造されたそうです。

さすがスペシャリスト!

いただきます!

ありがたいことに、朝採れたばかりの神水わかめをいただきました。

帰ってすぐに素麺に。

先程まで海の底で揺らめいていた生わかめでお昼ごはんです。

なんという贅沢。

何よりのご馳走。

夜ごはんは別の方から頂いた掘りたての筍で筍わかめごはん。

山椒の葉も採れたてのいただきもの。

色んな方の優しさが詰まった食材は本当に何よりのご馳走です。

※生わかめは炊き込まず、炊きたての筍ごはんにサッと混ぜただけで綺麗な緑色になります。

こんな食べ方も

柔らかいけれどほど良い歯ごたえもある神水わかめは

すぐに火も通るため、いろんなお料理に使えます。

我が家では豚キムチにしてみたり、

炒飯にしてみたり、

ポテトサラダにしてみたり。

どれもわかめにはほとんど火を通さず、ほぼ余熱で調理しています。

神水わかめと出会える場所

長くなりましたがここまで辛抱強く読んでくださった方の中には、

「それで神水わかめはどこに行けば手に入るの?」

と思った方もいらっしゃるかも。

でも…。

実は…。

市場にはほとんど出回っていないのです!

絶賛しておきながらすみません。

唯一出会えるのがこちらの“田結わかめ祭”。

今年も5月19日(日)に開催されます。

このわかめ祭で、ほぼ全ての神水わかめが消費されて

しまうんだそうです。

 

平成10年に田結のわかめ干し場が完成した記念として

翌年の平成11年から開催されている“わかめ祭”。

令和元年の今年は記念すべき第20回。

ぜひ足を運んで、山と森と川と海の恵み、

そしてわかめ漁師さんとそのご家族の努力の賜物である神水わかめを

存分に味わい堪能してください。

この記事を書いた人

桶生美樹

2000年10月、こども英会話の講師を辞めて魚市場で働く夫とミレニアム婚。生まれ育った姫路から大阪へと移り住む。2002年日韓ワールドカップ終了を機に、サッカーをこよなく愛する夫は大阪の魚市場を辞めて、実家が営む城崎温泉の魚屋を継ぐことを決意。夫婦で豊岡市へと移住することに。現在城崎温泉と日本海の美味しい魚にすっかり魅了され、魚介で四季を感じる暮らしをすっかり満喫中の3児の母。
(株)おけしょう鮮魚
お食事処 海中苑
☎0796-29-4832

http://www.okesyo.com/

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