漁師という仕事
6月、それは別れの時
梅雨の季節となりました。
すぐれないお天気が続き、いつもはきらきら眩しい早朝の気比の浜も、今は曇天模様。
気分もなんだかどんより。
でも、どんよりしてしまう理由がもう一つ…。
私を寂しい気持ちにさせることがあるのです。
但馬の底びき網漁
こんにちは。城崎温泉で魚屋を営む桶生美樹です。
7月で移住歴19年目に入りますが、変わらず豊岡での暮らしを満喫中の3児の母です。
私がこの時期寂しくなる理由のひとつが、底びき網漁の禁漁です。
底びき網漁とは、水深100~600メートルの海底に網を入れて行う漁で、兵庫県の日本海側地域では沖合底びき網漁が盛んに行われています。
豊岡市津居山漁港から大・小13隻の底びき網漁船が出港し、漁を行っています。
津居山港で揚がる美味しいお魚は例えばこんな感じ。
・はたはた、沖きす
・のめ、どろえび、かれい
豊岡の美味しいお魚レシピ vol.2~のめ、どろえび、かれい~
冬の日本海の王様、松葉がにもこの底びき網漁で水揚げされています。
雌の松葉がに、せこがにも。
資源保護のため、漁が行われるのは9月~翌5月末まで。6月に入ると但馬の底びき網漁は一旦禁漁になります。
再び9月に解禁になるまでの間、漁師さんたちは船や網の補修をしたり、海底掃除をしたり…と来シーズンに向けての準備期間に入ります。
私が寂しい気分になってしまうのは、底びき網漁で水揚げされていた地元のお魚がしばらく食べられなくなるから。
でもそれもこれも資源保護や漁師さんの準備のため。日本海の幸に感謝して、しばらくの間我慢です。
さて、そんな底びき網シーズン終了間際の5月下旬。
どうしても一度見学してみたかった底びき網漁船の内部を案内していただけることになりました。
私の無理なお願いを快く引き受けてくださったのは、日本丸の石橋俊彦さん。(写真前列右)
取材させていただいた日は、数時間前に競りが終わったばかりで、翌日には今期最後の漁に出る…というタイミングでした。仕事終わりでおつかれのところありがとうございます。それでは石橋さん、よろしくお願いします
漁の全貌をご紹介
まずは詳しい漁の方法から教えていただきました。
底びき網漁は、海底に入れた大きな網を約1000~2000メートルの長いロープを使い、人が歩くほどのゆっくりとしたペースで1時間ほど引いた後、網を巻き上げ水揚げをします。
漁は写真にあるオレンジ色のブイを海に投げ入れることからはじまります。
ブイは長いロープへ、さらに網へとつながっています。
漁場が決まるとブイを投げ入れて浮標とし、野球のベースを回っているような、ひし形を描くように船を進めながら、ロープをどんどん海の中へと伸ばしていきます。
これがそのロープ。圧巻です。
よく見ると太さが違う部分があるの、わかりますか?
ひし形を描くように船を進めると、一定の長さまでロープが伸びたところで角度をかえます。船が曲がる部分のロープが太くなっていて、その重みからロープがさらに海に深く沈むように計算されています。そして船が浮標のブイとひし形の対角線上辺りに来た時に網を投入。
これがその網。獲る魚の種類によって目の大きさや種類が変わるため、狙う魚種によって網は交換するのだそう。
この日はホタルイカ漁を行うため、巻き上げ機には緑色の細かい目の網が設置されていました。船によって仕組みは様々ですが、日本丸の場合は前方に巻き上げ機があり、船の右側から水揚げを行うそうです。
網を投入すると、再び角度を変えて進み、最初に投げ入れたオレンジ色のブイの元へ戻ります。
つまり、漁場が決まればブイを入れ、ブイを起点にひし形を描きながら進んでロープと網を海に入れます。再びひし形を描きながらブイの元に戻ったらブイを引き上げ、ゆっくりと進みながら網を引き、カニや魚が入るのを待つ…という流れ。
イメージとしてはこんな感じ。
網を引いている間が、船員さんたちにとってしばしの休憩時間なのだそう。
ちなみに、この黒い砂時計のような形のもの、何だと思いますか?
実はこれ「底びき網漁を行っている船である」という目印なんです。
漁を行っている間、海底に沈む長いロープと大きな網は他の船から見えません。
他の船が誤って近づき、巻き込まれる事故を防ぐため、この船が「底びき網漁船」であることを知らせる印として付けられています。
様々な計器やスイッチが並ぶのは操舵室です。
隣にはパソコンや最新の機器がずらり。
昔から行われている底びき網漁ですが、時代の流れとともにデジタル化され、最新システムを取り入れています。
漁をする上で、企業秘密的な情報が記されているため撮影はしませんでしたが、過去の漁のデータや海の状況を記したスクリーンを見せてもらいました。そこで目にとまったのは海の真ん中に書かれた“ひこうき”の文字。
なんとそこは飛行機が沈んでいるのだとか!
他にも海の貴重な情報が数多く記されていて、漁場を決める元になっているのだそう。
これはかつて使われていた舵。今は手のひらサイズのとても小さな装置で操縦しています。
船の中央部分の水面下にはエンジン室がありました。
1000~2000メートルと長いロープと網を引く船なだけに、とても大きなエンジン!
休漁期間中にはエンジンのメンテナンスも行います。
船の内部を大公開‼
さぁ、いよいよ船の内部へ。まずは船の前方船底にあるお部屋。
小さな四角い入口から、はしごもないのにひょいひょいっと入っていく石橋さん。ここは水揚げ後の魚を保管する場所で、「入ってみる?」と言われたのですが、出る時に自力で這い上がれる自信がなかったので、石橋さんに中の写真を撮ってもらいました。水面より下になるため、窓もなくひんやりしているのだそう。
内部は約10畳くらいの広さ。驚いたのは甲板で仕分けした大量のカニや魚をこの船底の部屋へ手で運ぶ、ということ。石橋さんの身長くらいある高さから大量の重い荷を上げ下ろしするなんて、どれほど大変であろうか…と頭がさがります。
操舵室の後ろには船頭さんの仮眠室があります。しかし、漁に出ている間に船頭さんが仮眠をとることはほとんどなく「ここはあまり使っていない」と石橋さん。
円い窓がかわいい小さなキッチンでは、新米の漁師さんがみんなの食事を作ります。食事は甲板の上でとりますが、雨の日もカッパを着て甲板で。漁の間は食事タイムもなかなかハードです。
そしてキッチンの後ろの床には、人が1人入れる程の小さな暗い穴がありました。穴は階段になっていて、おそるおそる暗闇の中へと下りてみると…。
なんと!船員さんたちの休憩室でした
右側に見えているのが私が下りてきた階段です。
天井は低く、大人5人ほどが座れるくらいのスペース。
カプセルホテルのような個室風の狭い寝床もありました。
テレビやエアコンも完備。しかしテレビを見ることはほとんどなく、寝床も数時間だけ仮眠をとるだけなんだとか。
休憩室も水面下になるため窓はなく、静かでひんやりとしていて、いつまでも滞在していられそうな妙に落ち着くスペースでした。
ただし、この日はよく晴れた穏やかな凪の日。船は揺れることもなく落ち着いていましたが、ひとたび沖にでるとこんな日ばかりではありません。
停電で真っ暗になってしまったり、大シケで怖い思いをしたり。それでも石橋さんに漁の話を聞いていると、大変な中にもすごくやりがいのある仕事であることを確信しました。生まれ変わったら漁師になってみたいな…と頭をよぎったくらい。
見学させていただいたことで、未知の世界だった漁師さんの仕事をとても身近に感じました。もちろん、実際の現場が想像以上に大変なことはわかっていますが…。地元の子どもたちにも底びき網漁船の内部をぜひ見せてあげたいし、どのように漁が行われているかを詳しく教えてあげたいと思いました。そうすることで興味を持ち、将来は「漁師になりたい」と思う子どもも出てくるのではないでしょうか。
ふだん食べている美味しいお魚がどのようにして食卓に届いているのか。どうやって水揚げされているのか。せっかく港がある街に生まれたのだから、これからのサステナブルな漁業を目指し、地元の子どもたちにもっと興味を持ってもらえたらいいなと強く思いました。
石橋さんもUターンの大先輩
実は石橋さん。3年前に豊岡市が「わかもの巣立ち応援プロジェクト」として作成したメッセージポスターにも登場しています。
「誇れる仕事をしよう。あと、親には感謝な。」
漁師さんの大変なお仕事の内容をうかがい、その現場を目の当たりにした後、改めてこのポスターをみると余計に胸がじ~ん…。
石橋さん自身も豊岡市内の高校を卒業後、他府県の大学へ進学。卒業後にUターンで戻ってきて、生まれ育った津居山で父親の後を継いで漁師になりました。津居山は小さな港町ですが、生まれ育った場所で「誇れる仕事」をされています。
今回の見学で、知らなかった新しい発見がたくさんあり、改めて美味しい魚のありがたさと、漁師さんへの感謝の気持ちを感じました。
漁師という仕事。それは最高にかっこいい職業です!