豊岡で出会ったINCREWのやさしい時間
雪の上で、娘がロープを引いた日
雪の上で、娘がロープを握りました。
ロープの先には、水陸両用のアウトドア車いす「ヒッポキャンプ」。
雪の上でも砂浜でも走ることができる、特別なアウトドア車いすです。
娘は一生懸命ロープを引きながら、前へ前へと進んでいきました。
雪を踏みしめながら小さな体でロープを引くその姿に、まわりの大人たちから自然と「がんばれー!」という声があがります。
声援を聞きながら娘は何度も振り返りまたロープを引きました。
▲ソリで滑って帰りはヒッポキャンプ
この日、私たち家族が参加していたのは、但馬地域で活動している団体 INCREW(インクルー) のイベントです。
INCREWは、但馬の豊かな自然を舞台に、障がいのある人もない人も、子どもも大人も、立場や年齢に関係なく同じ時間と空間を共有しながら遊ぶ体験を重ねて楽しめる場をつくっています。
こうした考え方は「インクルーシブ」と呼ばれ、特別に分けるのではなく、違いがあっても同じ時間を共有する社会のあり方です。
INCREW(インクルー)という団体がつくっている空気
INCREWは、2022年に立ち上げられた一般社団法人です。
兵庫県北部、神鍋高原や城崎温泉、竹野浜がある但馬地方に、インクルーシブな活動拠点を見出そう。
そんな思いから、この活動は始まったのだそうです。
▲但馬の自然の中で始まった活動~INCREWさんのH.Pより~
活動で大切にされているのは「支援する人」「支援される人」という関係ではなく、一人ひとりがその場の参加者であること。
どうしたら安全に楽しめるか、どうしたらその人らしく過ごせるか。
みんなで考えながら場をつくっていく。
その姿勢が、イベント全体の空気として自然に伝わってきました。
私たち家族はこれまでに
・夏の海でのSUP体験
・秋のツリーイング
・冬の雪遊び
と、季節ごとに開催されるイベントに参加してきました。
海に広がったシャボン玉の記憶
移住した年の夏、我が家はINCREWのイベントに初めて参加しました。
障がいがあるかないかに関係なく、自分とは違う個性を持った人とも一緒に遊べるんだということを子どもたちに、知ってほしい。
まだ言葉で理解できなくても、同じ空間で一緒に遊ぶ中で何かを感じ取ってくれたらいいな。
そんな思いで、家族でその場に向かいました。
その日はヒッポキャンプをSUPに固定し海を回遊しました。
ヒッポには障害のある方が乗り、皆で一緒に海の上を進んでいきます。
ライフジャケットを着て、ただ海にプカプカと浮かぶ時間もありました。
波に揺られながら笑い合ったりする、そんなゆったりとした時間が海の上に流れていました。
▲海にもヒッポキャンプが大活躍。
そんな中海に浸かっているご家族の写真を撮る場面がありました。
そのとき息子がシャボン玉を飛ばし始め、風に乗ってシャボン玉がそのご家族の目の前に広がると、思わず笑顔と歓声が上がりました。
するとカメラマンの方が、
「シャボン玉に囲まれた、笑顔いっぱいの写真になったよー」
と教えてくれました。
それから息子は一生懸命シャボン玉を吹き続けていました。
息子は自分がしたことで誰かが笑ってくれくれる。その嬉しさを感じていたのかもしれません。
INCREWの時間は、子どもと大人、支える人と支えられる人が分かれるのではなく、お互いに笑顔をもらっている時間なんだと思いました。
▲笑顔を作ったシャボン玉
一本の木に、みんなでぶら下がる
秋のツリーイング体験では、一本の木にロープをかけて、みんなでぶら下がりました。
ゆらゆらと揺れながら下に広がる景色を見下ろします。
ヒッポキャンプもロープで結び、同じようにゆらゆらと揺れます。
木の上には障がいのある人も、ない人も、子どもも大人も同じようにぶら下がっています。
▲木の上ではみんな同じ高さーインストラクターの安全管理のもと運営していますー
ただ揺れているだけなのに不思議とみんなの表情がやわらいでいくのが伝わってきます。
みんなで手を振りながら、その時間を楽しむ。
ただそれだけなのに、不思議なくらいあたたかい空気がそこには流れていました。
雪の中で、考えるより先に動いた娘
そして、雪遊びの日。娘は「ヒッポキャンプを引きたい」と言って、大人たちの中に入り一生懸命ロープを引いていました。
▲笑顔で目が合うと嬉しくなる
誰かに頼まれたわけでもなく、役割を与えられたわけでもありません。
ただ一緒にいる中で、自然とそうした関わりが生まれていました。
考える前に、体が動く。一緒にいるから、関係が生まれる。
知っているはずの豊岡で、まだ知らなかった豊岡に出会えたこと。
子どもと一緒に、その風景を更新できていること。
そして雪遊びの時間の中で、素敵な笑顔が生まれる瞬間がありました。
その笑顔が、ご家族にも、周りにいる私たちにも広がっていく。
笑顔が笑顔を呼ぶ。そんな時間が流れていました。
みんなで雪の上に寝そべり、同じ空を見上げます。
大人も子どもも、支援が必要な人もそうでない人も、ただ同じ空を見上げている。
それだけなのに、それがどんなに特別なことなのかを感じる時間でした。
▲雪の上で同じ空を見上げる。そして登場!最年少カメラガール♪
小学生の頃の記憶が、重なった瞬間
そんな時間を過ごしていると、ふと自分の子どもの頃の事を思い出しました。
私が初めて障がいのある子と関わったのは、小学生の頃でした。
私が通っていた小学校には、定期的に近くの聾学校の生徒と一緒に授業を受ける日がありました。
当時の私は、どう接したらいいのか分かりませんでした。
今思えばそれは、外国の方と言葉を知らないまま初めてコミュニケーションを取るような感覚に少し似ていたのかもしれません。
そんな中で一緒に体育の授業をしたとき、そこには言葉はいらなくて、
「楽しいね」
という気持ちを笑顔で伝え合っていました。
仲良くなるにつれて私はもっと彼女のことを知りたいと思うようになりました。
私の自由帳には、彼女と交わしたやりとりや、伝えたい言葉を書いて、見せて、また返事をもらってー
そんなやりとりを重ねるうちにいつの間にかページがいっぱいになっていました。
豊岡で出会えた景色
私の子どもたちは日常の中で、支援が必要な人と関わる機会は多くありません。
だからこそどう関わったらいいのか分からない、少し戸惑いを感じてしまう。
そんな気持ちが生まれてしまうこともあると思います。
それでも子どもたちはシャボン玉を吹いたり、ロープを引いたり、自然と誰かに関わろうとしていました。
特別な知識があるわけでも、正しい関わり方を知っているわけでもありません。
ただ同じ空間で一緒に過ごしている。その時間の中で、少しずつ距離が近づいていく。
INCREWの活動は、私たち家族にとって「一緒に楽しむことの大切さ」を教えてくれる時間になっています。
笑顔が重なるその時間の中に、たくさんのやさしい瞬間がありました。
▲私の好きな笑顔~一緒に居ると笑顔になれる~
豊岡は、私にとって昔から知っている町です。
でも子どもと過ごす今、知らなかった豊岡に出会い、一緒にその景色を更新していき、その風景は少しずつ違って見えてきます。
そして私自身INCREWのイベントに参加していて感じたことがあります。
私たち親は子どもの幸せを願って色んなことを教えようとします。
でも親だけでは教えきれないこともあります。
INCREWでは、子どもたちが自然の中で誰かと出会い関わりながら、楽しむ中でそうしたことを体験していきます。
家庭とも学校とも違う場所で子どもたちは大切なことを少しずつ学んでいく。
そんな時間を、私はこの町で見つけました。
そしてそんな時間を受け止めてくれる自然がこの豊岡にはありました。
▲また会いたくなる優しい時間




