クルマ社会と鉄道愛
こんにちは。市民ライターの田上敦士です。
以前にも書きましたが、私は1年前に豊岡にUターンして空き家になっていた同級生の実家を借りて暮らしています。家を決める際、実は別の候補もあったのですが、いろんな条件を考慮してこの家を選びました。重視した条件の一つが「駅から近いこと」。家族がいる大阪との行き来を考慮し、さらにパーソナリティをさせてもらっているコミュニティFM局も駅前にあるため、駅から徒歩10分弱の立地が大変魅力的でした。
しかし、実際に1年ここで暮らして、気づいたのです。
「“駅チカ”には、あまり意味はなかった」
東京や大阪で不動産を探すとき「最寄り駅から徒歩*分」は重視する人が多い条件の一つです。しかし、豊岡での家探しにおいてはこの条件はあまり重要ではなかった、ということに1年経ってようやく私は気づきました。なぜなら、ほぼすべての移動をクルマでおこなう今の暮らしの中では、駅までが徒歩5分だろうと40分だろうと、大きな影響はないのです。想定していた大阪との往来にしても、鉄道を利用することはほぼありません(コロナの影響で特急列車が減便になったり、そもそも行き来する回数が想定を大きく下回ったりという事情もあるのですが)。この家での暮らし自体には満足しているものの、「駅が近い」ことのメリットというのは、実はそれほどなかったというのが私の実感です。
公共交通機関(鉄道・バス)が、都会のように便利ではない
都会に住む方にもある程度は想像がつくと思います。現在、豊岡駅を発着する普通列車は上り下りとも1日15便程度。これでも私の高校時代よりは本数が増えているのですが、「1時間に1本走るかどうか」というのは、都会の電車の感覚からすると信じられないかもしれません。そんな運転頻度の問題に加えて、駅から目的地までの距離という問題もあります。東京23区より広い豊岡市の中に、JRの駅は6つ(うち2つは無人駅)。あとは京都丹後鉄道の小さな駅が1つ。「駅に行くまで」「駅で降りたあと」が問題です。
それを補うのがバスなのですが、こちらも本数は少なく、決して利用しやすいとは言えません。さきほど「列車の本数は昔よりは増えた」と書きましたが、バスの本数は明らかに減ったと感じています。いま気づいたのですが、豊岡に戻ってきてからのこの1年間、私は一度もバスに乗っていないのです!
もちろん、車を持っていない高齢者の方や、通学に使う高校生にとっては、今でもバスは大切な移動手段です。市街地を循環する小型バス「コバス」や、路線バスが休止になった地域で運行する市営バス「イナカー」など、私の子どもの頃には無かった新しいバスも走っています。とはいえ、昔とは比べ物にならないくらいに「クルマ社会化」が進んだことで、バスの本数が減ってしまったのは、仕方ないことかもしれません…。
クルマでの移動の利便性が、都会より高い
暮らしてみて実感したのが、とにかくクルマ移動が便利なことです。都会だと「家から駐車場まで少し歩く」「立体駐車場からクルマを出すのに時間がかかる」「道路が渋滞する」「目的地が道の反対側にあると回り道しないといけない」「目的地周辺の駐車場探しが大変」などなど、便利なクルマ移動にもいろんな「不便」が付きまといます。そしてそもそも駐車場代が高い!その点こちらでは、先ほど挙げたような「不便」は一切ありません。それに加えて、家電量販店やファーストフードなどのチェーン店(昔の豊岡にはこんな店なかった…)がほとんどがバイパス道路沿いにあるので、こういったお店に行こうとすると必然的にクルマで行くことになります。さらに、運転代行業者さんも何社もあるので、「クルマで居酒屋に行ってお酒を飲み、帰りは代行で送ってもらう」ということも日常茶飯事です。
こんなこと書いてますが、実は私…
実は私は、中学時代からの鉄道ファンなんです。大阪に住んでいた頃は「鉄道に乗りに行く旅」で全国をめぐっていました。主にローカル線に乗り、地元の人たちの暮らしの息吹を感じつつのどかな車窓を眺めながら過ごすひとときが大好きなんです。特に、川に沿って走る鉄道の景色を見ているのが好きなのですが、ある時気づきました。その原点は、城崎から豊岡に通う時に見ていた円山川の風景だったのだと。
当時の通学列車は、赤いディーゼル機関車が青色やブドウ色の旧型客車を引っ張って、ゴトゴト走るものでした。令和の今となってはもはや全国的にもほとんど見られない光景です。ただ、今でも豊岡を走る山陰本線には昭和の香りを残す旧型ディーゼルカーが残っていて、地元の人々は列車のことを「電車」ではなく「汽車」と呼びます(ディーゼルカーは電気で走るわけではないので、実は正しい言い方ではあります)。
今の私にとっては決して「便利な乗り物」とは言えませんが、時には「汽車」に乗って昔と変わらない車窓の景色を楽しむ時を持つことも必要なのかなと感じています。