紙箱職人のおはなし
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豊岡市日高町の江原駅から徒歩10分。
玄関を開けて、
「こんにちは〜」と奥に届くように声をかける。
「はーい」と声が聞こえたら
裁断機の横を通ってガラス戸を開ける。
裁断の機械がぐるりと並ぶ部屋の真ん中に、
糊を付ける大きな機械がある。
その前に立っているこのおじさん。
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豊岡市日高町で紙の箱を専門に作っていらっしゃる村尾紙箱の村尾さんです。
「まいど!暑なったなぁ、元気か?」
僕が豊岡に帰ってきて、起業してから
彫刻などの作品を入れる紙の箱を作ってもらっています。
「こないだ言っとったサンプルこれだぁで。」
テーブルにいろんな種類の紙が並ぶ。
箱について知識のない僕に、最近よく使う紙、もうあまり使われていない紙、中に入れる物によって表に貼る紙を変えたり、どうやって紙箱を注文すればいいか、一から教えてもらいました。
とはいえ、最初は作品が100個も200個もありません。
なので10個ほどの小ロットでしか頼めませんでした。
それが少しずつ増えていって、時々貼り箱(ボール紙の上から仕上げの紙を貼る箱)も作ってみて、それが売り切れたら次はもう少し数を増やして頼んで…
企業の仕分け箱などロット数の多いものも手掛ける村尾さんにしたら、個人でやっている僕の箱なんて手間ばかりかかると思います。
それでも毎回、
「こんなんもあるで。」
「こんなんおもろいんちゃう?」
といろんな知識を教えてくれます。
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真ん中の丸い機械は、紙をビニール紐でまとめる機械。
左は箱の角をホチキスで留める機械。
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箱の角をホチキスで留める機械。
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こちらは円盤状の歯で折り目をつける機械。
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折り目をつけるとこんな感じ。
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「この機械が一番サビるんだわ。
使っとればサビることはないけど、冬と梅雨時期はすぐにサビが来る。」
湿度の高い豊岡ならではの悩みです。
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こちらはローラーで糊を付ける機械。
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手伝ってくれる奥さんに分かりやすいよう
機械には説明書きがあります。
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裁断機と村尾さん。
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今の時代、ネットで注文も出来るけど、
サンプルを見て、FAXで注文して、引き取りに行って
というやり取りの中で
「儲かっとるか?」
「ちゃんと遊んどるか?」
「息抜きせぇよ。」
「嫁さん貰うなら早いうちがええぞ。」
といちいち気にかけてくれます。
それに、起業したら上司も先輩もいません。
なので仕事の仕方や悩み事など、もっぱらここで聞いてもらっていました。
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村尾さんの仕事場の壁には、頭より少し上くらいの位置に
うっすら線状の跡があります。
2004年、台風23号の水害で、ここまで水に浸かったそうです。
1階は畳も家具も浸水しました。
機械も泥だらけ。
しかし幸い、昔からある機械は殆どが手動でした。
新しい機械はダメになってしまって買い換えましたが、
古い電動の機械はモーターだけ取り替えれば復活したそうです。
「古い機械はええで。単純でな、よぉ動く。」
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そして、紙箱の材料は濡れたら使えません。
ストックの紙材料は全部廃棄になりました。
請け負ってやり掛けた箱も
これから受ける仕事の材料も
全部。
けど、そこから機械を修理し、村尾さんは紙箱製作を再開します。
1度ゼロになっても、やる気があればなんとかなる。
昔の話を聞きながら、たわいもない話を聞きながら、
ここに来るたびに学びがあります。
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村尾さんは言います。
「ワシらぁは表に出る仕事じゃないしけぇ。
中の物がいいように見えるように作るのが仕事だで。
中の物が安かったら高級な紙貼っても仕方ないし、
中に高いもん入れるんだったらそれなりの箱に入っとらんと伝わらんやろ?」
村尾さんは紙箱職人。
いいものを放っておいても勿体ない。
けど、無理しても仕方がない。
見栄を張っても仕方がない。
村尾さんの前では自然体で話せる。
あなたにはあなたに合った生き方があるよ、
と言われているような気がしました。
村尾紙器
〒669-5304
兵庫県豊岡市日高町宵田2-1
tel.0796-42-0095