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コウノトリが舞う、豊岡にあるもう一つのキャンパス

こんにちは。市民ライターの田上敦士です。

2021年春、芸術文化観光専門職大学(CAT)が豊岡に開学しました。劇作家の平田オリザさんが学長を務め、「豊岡演劇祭2022」の運営に深く携わるなどユニークなカリキュラムでメディアに取り上げられることも多い大学ですが、このCATが開学する以前から実は豊岡に大学のキャンパスがあったのをご存知でしょうか?

それが私の通う「兵庫県立大学大学院 豊岡ジオ・コウノトリキャンパス 地域資源マネジメント研究科」です。

県立コウノトリの郷公園の中にあるキャンパスで学ぶのは、大学院生ばかり約40人。このキャンパスは大学院のみ、かつ私のような社会人の院生も多いため、一般的な「大学」のイメージとは少し違ったキャンパスですが、そんな環境だからこその学びがたくさんあるのです。「ここで学ぶために豊岡に住む」そんな人が一人でも多くあらわれることを祈りつつ、私たちのキャンパスライフをお話していきましょう。

市立コウノトリ文化館(左)の隣にある大学院

まず「地域資源マネジメント」というネーミングから。ちょっと聞きなれない言葉ですが、豊岡市周辺にはたくさんの「地域資源」があります。この地域資源について「ジオ」「エコ」「ソシオ」という3つの領域から研究するのが、地域資源マネジメント研究科です。

まずは「山陰海岸ジオパーク」に指定されるほどの特徴ある地形。その代表格が「玄武洞」ですね。雄大な絶景はもちろん、世界で初めて地球磁場の逆転が発見された学術的にも重要な場所です。また、あちこちで湧く温泉なども地域資源と言えます。こうした「地質学」「堆積学」といったことを学ぶのが「ジオ」という領域です。

次に、その地形の上で暮らす動物や植物。中にはここでしか見られないものもありますね。そう、コウノトリです。今では野生復帰したコウノトリが300羽を超え、豊岡から各地に生息地が広がっていますが、単にコウノトリそのものだけを研究していても野生復帰への道は開かれません。田んぼの生態系や植物なども含めて、コウノトリが生育できる環境全体を研究することが必要です。そのための「生物学」「生態学」などを学ぶのが「エコ」という領域です。

そして、こういった「地形」や「生物」は、そこに住む人たちが生かして初めて「資源」となります。この地で暮らす人々の営みを「社会学」「歴史学」「地理学」といった様々な角度から研究するのが「ソシオ」の領域です。

院生室で研究する学生たち

この大学院では「土日開講」「長期履修制度(本来2年間の前期課程を4年間かけて履修できる)」といった社会人にも学びやすい制度が設けられており、実際約40人の学生のうちおよそ7割が社会人です。若手の学生のほとんどが但馬の外から進学してきているのに対し、社会人は多くが但馬出身の方ですが、中には平日は阪神間で暮らし、週末だけ豊岡に来ている方もいます。

3つの領域それぞれで、大学院生の層にも特徴があります。「エコ」の学生の研究は、コウノトリを観察したり田んぼの生き物を数えたりと、いわゆるフィールドワークが多いので、学生の多くは大学を卒業してそのまま大学院に進んだ若者です。一方、私の属する「ソシオ」には社会人の方が多く、平日は仕事をして土日を中心に講義を受けている方もいれば、自治体から「研修派遣」で来ている若手の職員さんもいます。さらに「ジオ」には「定年後の理科の先生」のように社会人を卒業された方も多い印象です。もちろん「ソシオ」や「ジオ」にも若い院生もいて、かなりバラエティに富んでいます。小規模な大学院なので、「ソシオ」の私たちも「ジオ」や「エコ」の学生や先生と接する機会も多く、それもまたこの大学院の魅力の一つと言えるでしょう。

教室での講義のようす

もちろん通常の講義もありますが、地域のあちこちに出かけて実地に学ぶフィールドワークの授業が多いのもこの大学院の特徴です。さらに、それぞれのテーマに合わせたゼミを通じて研究を進め、最終的に修士論文を書き上げることになります。

円山川河川敷でのフィールドワーク

ここで私が研究しているテーマは「JR山陰本線の持続可能な将来像と沿線住民の鉄道に対する意識調査」。今まさに注目を集めるローカル線問題について、単に経済的な側面だけでなく地元の住民の皆さんの意識調査も加味して、最も望ましい将来像を描きたい…というものです。もちろん鉄道好きの私としては「山陰本線には存続してほしい」という思いが強いのですが、私情は抜きにして「どんな選択肢が地域にとってベストなのか」を考えようとしています。

他の社会人学生の方に、どんな思いでこの大学院にやってきたのかを聞いてみました。

「学ぶことを楽しみたい!」~近藤佳里さんの場合~

ジオ領域に今年から通い始めた近藤佳里さんは、普段は神戸市西区の兵庫県立大学の本部に勤務しています。徳島県出身の近藤さんは、金沢大学の理学部地学科で学んだ、今風に言うと「リケジョ」で、地質コンサルティングの会社に就職するも結婚を機に退職し、専業主婦の道に進みました。

ところが、40代に入って子育てが一段落したタイミングで、近藤さんはふと考えます。

「主婦って、何なんだろう?」

子育てに追われてきた、地域の活動にも取り組んできた、でもそれって、社会からどれだけ評価されてるんだろう…そんな思いは、周囲の女性たちに共通していたといいます。そこで近藤さんは、一念発起して神戸大学の大学院でジェンダーや成人教育について学び始めました。修了後は神戸大学の男女共同参画室で働き始め、現在は兵庫県立大の「ダイバーシティ推進室」で、性別や障がいの有無、国籍などに関わらず教職員や学生が能力を最大限に活かせる環境づくりに取り組んでいます。

そして60歳を超え、夫も定年退職、子供も独立したタイミングで、近藤さんは再び思い立ちました。

「もう一回、好きな地学について、学ぶことを楽しみたい!」

そんな思いからこの地域資源マネジメント研究科にやってきた近藤さん。地学について学び直すとともに、日本ではまだ少ない理系の女性研究者の支援にも取り組んでいます。現在は仕事の傍ら週末だけ豊岡に通う日々ですが、仕事が一段落ついたら豊岡に住んで腰を落ち着けて勉強したいという思いも抱いています。

「40歳を過ぎたころから但馬のことが…」~廣瀬達也さんの場合~

ソシオ領域に去年入学した廣瀬達也さんは、養父市(旧八鹿町)の出身です。八鹿高校から早稲田大学法学部に進学(なんと私と同級生だったことが判明しましたが、マンモス大学だけあって在学中に全く面識はありませんでした…)、卒業後はIT系企業に就職しました。当初は金融系のシステム開発などに携わっていましたが、もともと地域系の仕事をしたいという思いがあり、30代半ば以降は自治体を中心とした公共システムの営業などを務めていたそうです。

ずっと東京中心に仕事をしていましたが、40代に入ったころから次第に故郷・但馬のことが気になり始めていた廣瀬さん。さらに2011年の東日本大震災を経てその思いはさらに強くなり、地元に近い関西への異動を希望して神戸へ転勤になったのが6年前。その時に豊岡にあるこの大学院のことを知り、「これは自分が求めていた『学び』が得られそうな学校だ」と思ったそうです。3年の神戸勤務を終えて東京に戻った時には「次に関西勤務になったら豊岡の大学院に行こう」と決意を固めていました。その後念願かなって2021年春に大阪へ転勤、年度末最後の入学試験にもギリギリ間に合いめでたく入学を果たしました。

現在は地元・養父市の「ざんざか踊り」をテーマに社会学を学んでいますが、そこには新鮮な「学び」があったと廣瀬さんは言います。

「これまでは企業の立場、経営の視点から『いかにお金を回すか』『どうやって課題を解決するか』とばかり考えてきました。しかし社会学では『まず地域に暮らす人の暮らしや思いをしっかりと聞き取って、現実をしっかり把握する』というところから入ります。そのアプローチは仕事の上でも大切だと感じました」

地元の伝統である祭りについて自ら体系的に記録することが、地元の人にも役立てば嬉しいと話す廣瀬さん。大学院の活動を通じて知り合いが増えたこともあり、会社員生活が一区切りついたら但馬に住むのもいいかな…という思いが大きくなっています。

フィールドワークに参加中の廣瀬さん(上)と筆者

年齢も経歴も様々な学生たちが、それぞれにいろんな思いを抱いてここで学んでいます。私自身は「もう一度故郷・但馬についてあらためて勉強してみたい」と考えて入学した大学院ですが、いろんな人たちとの出会いも含めて毎日がとても刺激的で、楽しいです。小さなキャンパスですが、この大学院には「コウノトリ」「玄武洞」など「この大学院ならではの研究対象」もたくさんあり、遠方から通っている大学院生も多いのです。

「学ぶために、この大学院に通うために豊岡に住む」

そんな移住の形もありなんじゃないか、そんな思いを抱きながら、私は三十数年ぶりの学生生活をエンジョイしています。

※12月25日、地域資源マネジメント研究科の「冬のオープンキャンパス」が、対面・オンライン併用で開催されます。詳しくはこちらから。

この記事を書いた人

田上 敦士

城崎生まれ。大学進学で上京し、大阪のテレビ局に就職して30年余り。早期退職して2020年に但馬に帰ってきました。
合同会社TAGネット 代表(といっても、社員は私だけです)

http://www.tag-net.work

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