日本でも豊岡だけ!?高校1年生の「ダンスを通じた探究活動」に密着
みなさんこんにちは。2019年に都市部から生まれ故郷の豊岡市にUターンしたえりかです。突然ですが、みなさんの心に問いかけます。ご自身の今までの人生を振り返り
「圧倒的な美しさを目にして息を呑むほど感動したこと」
「熱い想いで胸がいっぱいになって涙が自然とあふれてきたこと」
感じ方は人それぞれだとしても、宝物のようにきらめく瞬間がありませんでしたか?胸に手を当てて少し感じ取ってみてください。どうですか?よみがえってきましたか?
この取材を通して、私はまたひとつ、心の宝箱にしまいたい瞬間に立ち会うことができました。
近畿大学附属豊岡高校進学探究コースが取組む「ダンスを通じた探究活動」を密着取材
「ダンスを通じた探究活動」とは?
豊岡市環境経済課、近畿大学附属豊岡高校、一般社団法人ダンストークの3者協働で企画し2018年よりスタート。同校の進学探究コース1年生を対象に、豊岡市内で活動する人々や、さまざまな地域資源に触れて感じたこと、発見したことからダンス作品を創作・発表するプロジェクトです。
学生たちの目線で地域の魅力に気付く機会を与え、愛着を醸成し将来的なUターン就職につなげたり、ダンス作品という正解のないゴールを目指すプロセスの中で、一人ひとりの表現力・創造力を育む狙いがあります。
3年目の今年は、約3ヶ月に渡りこのように進行していきました。
まず、豊岡市で活躍する10名の大人(アドバイザー)が自身の仕事・活動について学生にプレゼンテーション。学生たちは興味を持ったアドバイザーを選択し、10チームに分かれてリサーチプランを作成します。その間、プロのダンスファシリテーターによるダンスワークショップを体験。ここで学生たちはダンスと出合います。そして各地域に赴き、アドバイザーの活動を実際にリサーチ。キーワードを得たり、感じたことからダンス作品の材料集めを行います。そこからダンスを0から創り上げ、アドバイザー達の前で発表をして終了。
これを初めて聞いた時、子どもでもなく大人にもなりきれていない多感な高校生たちにとって、とっても勇気のいるチャレンジングな内容だと思いました。
一体誰が、何のために、どんな想いを持って取組んでいるのか、このプロジェクトを動かしている源泉に触れたくて、学生の勇姿を追いながら、ファシリテーターを務める一般社団法人ダンストーク代表の千代その子さんと、近畿大学附属豊岡高校進学探究コース部長の中嶋徹先生にお話を伺いました。
物語はここからはじまった
千代さんは3歳からバレエを始め、ダンサーになる夢を叶えるべく17歳で単身渡英。ケント大学で学位取得後、イタリアのダンスカンパニーに所属して自身の表現力に磨きをかけますが、帰国後大きな挫折を味わうことになりました。
「日本でダンサーとして生活できる環境の不整備さに愕然とし、必死で資金を貯めて再び海外に戻りました。しかし、オーディションと移動費であっという間に資金が底をつきてしまって。その瞬間、燃え尽きてしまったんです。」と千代さん。
そんな彼女に転機が訪れたのは、龍谷大学大学院政策学研究科に入学した時のこと。
「授業で財政や環境、まちづくり、教育など、社会における様々な課題について議論する機会がたくさんあるんですが、みんなが難しい顔をして考えているのを見て思ったんです。『ダンスが解決への糸口になるんじゃないか』って。非現実世界に飛び込んで、自分をさらすことで自分が分かる。相手のこともわかる。ダンスには人づくりや教育など、社会課題の解決へのヒントが隠されているのでは!と一気に視野がひらけました。」
一人ひとりの人生、いのちにスポットライトを
大学院卒業後、ダンス関連のNPO法人に勤めていた千代さん。そこで城崎国際アートセンターのオープニングに携わることになり、初めて城崎を訪れます。プロジェクトでは、当時イギリスで最もポピュラーなダンスカンパニーの1つからディレクターを日本初招致。イベントは大成功を収めました。そして気がつくと、城崎の小さな子どもからお年寄りまで全世代の人々と仲良くなっていたのだそう。
同時期にイギリスで(※1)コミュニティダンスのファシリテータートレーニングを受けていた千代さん。「ダンスはみんなのもの。身体があれば誰でもできる。人々の人生やいのちを肯定し、一人ひとりにスポットライトを当てたい。そして豊岡をコミュニティダンスの日本最先端の場所にしたい。」と思うようになり、2018年、城崎で一般社団法人ダンストークを立ち上げたのです。
(※1)コミュニティダンスとは1970年代にイギリスで出てきた言葉。子どもから高齢者まで年齢や障がいのあるなし、性別、肌の色に関わらず、みんなで取組む創造的な活動の総称。
そして千代さんは「文化、観光、教育、福祉の分野とダンスを融合できないか」と、豊岡市環境経済課に相談したのです。
先生の想い
時を同じくして「学生たちが主体となって取組める特徴的なプログラムの良いアイデアはないか。」と高校側も市に相談していました。
「但馬(豊岡市を含む兵庫県北部エリアの総称)の子どもたちは素直で真面目な子が多い印象です。大人に言われたことはやるが、果たしてそのまま大人になっていいのかとずっと疑問に思っていました。テストの点数や大学の合格を目標に進む学校生活も大切かもしれませんが、社会で生きていくときに必要な力を付ける経験もさせたいと考えていたんです。」と進学探究コース部長の中嶋先生。
ダンストークの紹介を受けた当初は「高校生に創作ダンスは難しいのでは」と不安だったそう。
しかし「学生たちが作って発表することに正しいも間違いもない。表現したものが全てで、見る人もその全てを受け入れる」という千代さんからの話に共感。
「我々教師は“正解”を持って教鞭に立ってしまいがちです。一方でダンスの創作には正解がない。自分の気持ちを自由に表現したことが認められたら、それが自信につながり、自己肯定感を高める良いきっかけになると感じました。そしてこの時の勇気は社会に出て必ず役に立つのではと。これに加えて、地域で活躍している人々と触れ合うことで、地域の魅力に気付き、大学卒業後のUターン就職につながればと思っています。」と中嶋先生。
こうして市×学校×ダンス団体という、全国的にもめずらしいプロジェクトがトントン拍子で進んでいったのです。
プロジェクト3年目の今年
1年目は、学生はもちろん、学校も行政も全員が初めての取組み。全て手探りで進んでいきました。
ブラッシュアップを重ねた3年目の今年に私は密着したのですが、当初は学生たちの本音や弱音が耳に入ってきました。
「こんなのわかんない」「さっさとやって早く帰りたい」「ねむい」「だるい」
うんうん。わかるよ。私が学生だったらきっと同じことを言っている。
そんな、もじもじしていた学生たちの雰囲気がガラッと変わったのを目の当たりにしたのはダンス発表当日のこと。
学生一人ひとりの決意がキリッとその空間に現れているようでした。
そして迎えた発表の時。
「眠たくなるダンスです。どうぞ寝てください。」「見れば分かります。」等と、どのチームも説明をほぼせずにダンスをスタート。派手な衣装も身に付けず、最低限の小道具のみで音楽にのせて踊り始めるのですが、これが本当に素晴らしかった。
写真で全て伝えきれないのが残念ですが、10チームの勇姿をご覧ください。
不思議なことに、彼らが踊る様子と共に、豊岡市のさまざまな情景が浮かび上がってくるのです(この記事の作成中も、思い出すだけで熱いものがこみ上げてくる)。
気がつくと、会場には拍手や手拍子、学生たちの笑い声と瞳をうるませ鼻を啜る大人たちであふれかえっていました。
発表を終えて
発表後に大人たちと歓談する学生たちの姿をそっと見守りながら。
「大人が心配する必要も、伝えられることもないのかもしれない。見事にやり遂げ、表現しきった学生の姿に驚かされました。こうやって学生たちが堂々と大人と同じ輪の中で会話をする。この経験が大切だと思うんです。」
と中嶋先生。
最後に千代さんは学生たちにこう伝えました。
「この3ヶ月間、楽しいだけではなく辛いこともあったかもしれない。けど、これからみんなの人生の中に訪れるたくさんの『本番』。それは仕事の面接の日かもしれない、親に自分の気持ちを伝えるときかもしれない。その『本番』で、どうやったら自分の気持ちを表現できるのか、どうやったら相手に伝えられるのか、考える時が必ずやってくる。そんな時に、この経験を思い出してほしい。大人になったみんなを高校生の自分がきっと助けてくれるから。だから、この経験はお守りみたいなものです。そして、10年後15年後、私たちをどこかで見つけたら声をかけてください。『あれからこんなことがあったんですよ』って。」
取材を終えて
今回の取材を通し、学生の立場だったら嫌だろうなという共感と、私もこんな経験がしたかったという羨ましさがありました。正解か不正解かの学校生活から、社会に出ると途端に自分の意見を求められます。「で、あなたはどう思ってるの?どうしたいの?」と。自分が本当はどうしたいのか葛藤したこともあったからこそ「必ず役に立つよ!」と、応援する気持ちで密着させてもらいました。
印象的だったのは、中嶋先生をはじめとする学校の先生方、千代さんやダンスアーティスト、そして地域のアドバイザーの皆さん、このプロジェクトに関わる大人たちがみんな本気で真剣だったこと。そして当初はふわふわしていた学生たちが、たったの3ヶ月間で表情も雰囲気もガラッと変わり、一人ひとりの個性が輝きはじめた瞬間を目の当たりにしたことでした。
学生たちから沢山のギフトを与えてもらったこの機会に感謝し、彼らの輝かしい未来にエールを送りたいと思います。
【取材先】