アラサーソロ移住女子への処方箋 #1「お師匠からタケノコ」
3年前の冬、豊岡に単身移住してきた。
縁もゆかりもない土地に一人でやってくるのは何かとこわいもの。
しかしながら、豊岡で出会った人たちと過ごすなかで戸惑いや不安は不思議と解けていく。
交わした言葉や時間はまるで“処方箋”のよう。
そんな暮らしの記録を「アラサーソロ移住女子への処方箋」※と名付けた。
※どこかで見た記事では私より年上の方も「女子」と表現していたので、ここは私も「女子」でいかせてもらう。異論は認めない。
ゴールデンウィークに会話した相手がさまざまな職種の店員さんと母のみだったと上司に話したら「大丈夫?」と本気で心配された。
大丈夫だ(できれば上司には笑ってほしかったのだ)。
私が一人時間を満喫している間、同級生が新婚旅行に出かけたり、子どもを遊具で遊ばせていたりしたけど、全然大丈夫。
この春の私は、タケノコの相手をするのに忙しかったから。
豊岡に移住する前、都会で生活していた時から自然と共存するような、時間がゆったりと流れるような”丁寧な暮らし”にずっと憧れていた。
そんな私に、「丁寧な暮らししたいんやろ?」と言って自宅の裏山で採れたタケノコを分けてくれたのが、豊岡で出会った私のお師匠。仕事のことや生活のこと、スキンケアからメンタルケアまで、困ったことがあれば相談する”診療所”のような存在だ。何のゆかりもない豊岡に単身でひょっこり来た私にとって心強く、とてもありがたいご縁だった。
タケノコを炊くのに必要な唐辛子と米ぬかをセットで持たせてくれた。もうやるしかない。
「丁寧な暮らしはせわしない」
「丁寧な暮らしってなあ、せわしないんやで!」by お師匠
タケノコの調理を通して、私はその言葉の意味を知ることになる。
タケノコを弱火で炊くことおよそ2時間。時折、米ぬかが「バフッ」と音を立てて飛び散るので火の加減を調節したり、火の入り方にムラがないようにタケノコをひっくり返したりしてみる。
べつにそんなに見張っていなくても問題ないのに、どうも気になってすぐに鍋の前に来てしまう。子どもを産み育てたことはないけれど、もし子どもがいたら私は目が離せなくて過保護な親になるんだろうなというところまでは容易に想像できた。
「あ~これ私じゃなかったら炊いてる間にもう一品作ったり仕事したりできるんやろうな~」と鍋を見つめながらふと思った。
炊いている様子をSNSにアップしたら、案の定、お師匠から「炊いている間に仕事しなさいっ」とご助言が飛んできたので次またタケノコを炊くことがあればそうしようと思う。ちなみに、私が家に帰ってタケノコ調理だけをしている間にお師匠は裏山に山野草を植えていたという。
お師匠の言う通り、丁寧な暮らしは思っていたよりせわしない。
タケノコが柔らかくなったのを確認して火を止める。
ここからは見つめていても何も変化はないし、翌朝までそのままにしておくらしい。それでも私は「タケノコ、自分でできたやーん!」とちょっと誇らしげに鍋を覗いていた。この嬉しい気持ちをその場で共有できる相手が居ればいいけれど居ないものは居ないので、母に写真を送った。
タケノコに学び、タケノコに救われる。
翌朝、タケノコを引き上げ水の入ったタッパーに入れたら下処理完了!この日の目覚めはとってもすっきりしていた。なぜならばタケノコが私を待っていたから。
私はタケノコに救われた。
環境の変化が大きい春先にメンタル不調を引き起こすのが毎年恒例になってしまい、ちょうど目覚めがつらい日が続いていたなかで「タケノコを引き上げる」楽しみがあったおかげですっきり起きることができたのだ。
ほんの少しでも楽しみができれば、憂うつな朝は吹き飛ばせるかもしれないとタケノコから学んだ。大げさじゃなく、私はタケノコに救われた。
その様子に「ずっとタケノコ炊いといたら?」と笑うお師匠。私もそのほうがいいかもしれないと思った。
若竹煮(タケノコとワカメの煮物)に、タケノコ醤油バターに、タケノコ梅おかか和え、タケノコご飯も作ってみた。
中でも感動したのラーメン用に作ったメンマ。手間がかかるイメージだったけど、じゅうぶんに柔らかくなったタケノコを醤油などの調味料と一緒にささっと炒めるだけでできた。
これを頬張っている私はとっても幸せそうな顔をしていたと思う。誰も見ていなかったのが残念だけど。
豊岡暮らしは、おすそわけ暮らし。
豊岡に来て、自分の生活のなかに「おすそわけ」文化が入り込んできた。
田舎暮らしと聞くと「戸建ての古民家に移り住んで朝晩関係なくご近所さんがお野菜持ってきてくれる」みたいな生活をイメージするかもしれない(もちろんそういう暮らしもある)けれど、私はアパート暮らしを選んだ。
それでも、職場や地域の人たちからおすそわけをもらう機会はたくさんある。帰ってからレシピを調べるのもいいけれど、もらったその場で「どうやって食べるのがおすすめですか?」と聞くのがいい。皆さん絶対に美味ししい食べ方を知っているから。
そして、おすそわけをもらったらお返しできるものを考えてみる。強制でもなんでもないけれど「なにをお返ししたら喜んでくれるかな」と考える時間に心がほどける。
一人で来たけど、独りじゃない
「ひと~り~だけど~ひと~り~じゃな~い こころの~なかは~ひと~り~じゃな~い」 【ひといきつきながら / 生沢佑一】
今回の処方箋は、お師匠からのタケノコ。
調理を通して、思い描いていた丁寧な暮らしの正体はコツコツと積み重ねられた手間とひまの賜物なのだと知った。それから地域の人たちは「タケノコどうやった?」とにまにましながら私の何気ない話を聞いてくれた。
私はまた一つ、プロのソロ移住女子に近づくことができたかもしれない。
一人で移住してもなんとかなることを私が、ここ豊岡から証明するとしよう。
「今日を生きるすべてのひとに しあわせだと思える瞬間がありますように」 【ひといきつきながら / 生沢佑一】




