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豊岡の教育っておもしろい②子ども達が変わっていく時間~演劇ワークショップの教室で見た豊岡の教育~

子どもたちが変わっていく時間 ~演劇ワークショップの教室で見たこと~

前回の記事では、豊岡市が演劇ワークショップを通して育もうとしている「非認知能力」について学びました。

他者と関わる力、自制心、やり抜く力。

テストの点数では測れないけれど、これからの時代を生きていく上で大切だと言われている力です。

 前回の記事はこちら

でも正直なところ、その説明を聞いただけでは、実際の授業の中で「非認知能力」がどのように育まれているのかまでは想像できませんでした。

そこで今回は、豊岡小学校1年生対象の演劇ワークショップで、教室で何が行われているのかを見学してきました。

子どもたちが来る前から授業は始まっていた

今回見学したのは、一年生に対して年3回行われる演劇ワークショップの3回目。

授業を進めるのは担任の先生ではなく、外部から来た進行役の方たち。
※この授業では進行役を「ファシリテーター」と呼びます。

 

子どもたちが教室に来る前。

ファシリテーターと教育委員会の方が、会場で打ち合わせをしていました。

「あの子は前回こんな様子だった」

「今日はどうかな」

そんなふうに、一人ひとりの子どもの姿を思い浮かべながら打ち合わせは進んでいきます。

▲授業開始前。ファシリテーターと教育委員会の方が前回の様子や今回の進め方を確認します。

その後、ファシリテーターは養生テープに子どもたちの名前を書き始めます。

一人ずつ丁寧に。

ただの名札作りに見えましたが、この名札はこの後、思いもよらない使われ方をすることになります。

▲子どもたちを迎え入れる準備。一人ひとりの姿を思いうかべながら丁寧に作っていきます。

「授業を始めます」はありませんでした

子どもたちが教室に入ってきました。

すると突然、ファシリテーターが走り出します。

何が起きたのかと思った次の瞬間、子どもたちはファシリテーターの服に自分の名前が貼られていることに気づき、

「待ってー!」

「私のあった!」

教室中に歓声が響きます。

子どもたちは夢中で追いかけ、自分の名札を見つけると制服に貼っていきました。

気づけば全員が走り回っています。

 

▲名札探しは毎回大盛り上がり♪子どもの楽しい気持ちを一気に開放します。

さっきまで緊張していた子どもたちも、もう笑顔です。

今振り返ると、この時間は単なるゲームではなかったのだと思います。

子どもたちは授業を受ける側ではなく、最初から自分で動いていました。

指示されて動くのではなく、自分から関わる。

そんな空気が授業開始数分で出来上がっていました。

 

担任の先生は、まるで参観日に来た保護者のように教室の後ろから子どもたちの様子を見守っています。

「ありがとう」と言う授業

次に始まったのは、ファシリテーターによる場面当てクイズ。

この日のお題は回転寿司屋さん。

一人がお客さん。

一人がすし職人。

そしてもう一人はなんと回転すしのレーン役。

子どもたちは、大興奮。

「回転寿司!」

「お寿司屋さん!」

次々と手が挙がり答えていきます。

 

その時、印象的だったやりとりがあります。

答えた子どもに対して、ファシリテーターは

「正解!」

ではなく、

「ありがとう」

と言ったのです。

 

 

▲「わかった!」と次々に手を挙げる子どもたち。

最初は少し不思議な感覚でしたが、ありがとうと言われた子どもはとても嬉しそう。

その様子を見ているうちに、正解を当てることよりも、「自分はこう思った」と言葉にすること自体が歓迎されているように感じました。

発言する。伝える。そして受け止めてもらう。

その繰り返しが、子どもたちの手を自然と挙げさせているように見え、この授業が目指しているものを少し理解できた気がしました。

 

猫だらけの「動物園」

ここからはいよいよ子どもたち自身が場面を作るグループの時間です。

子どもたちはグループごとにくじを引き、それぞれのお題に挑戦します。

「ラーメン屋」「海」「お化け屋敷」

 

私が近くで見ていたグループのお題は「動物園」でした。

「やったー!動物園だ!」

そう言いながら話し合いを始めた子どもたち。

しばらくすると、

「猫!」

「私も猫!」

「僕も猫!」

という声が聞こえてきます。

気づけば全員が猫になっていました。

するとファシリテーターが一言。

「猫ちゃん可愛いね!動物園って、猫以外に何がいるかな?」

答えは教えません。

ただ問いを投げかけただけです。

「こうしたらいいよ」と教えるわけでもなく、

「次はこれをやってみよう」と指示を出すわけでもありません。

 

▲ファシリテーターは子どもたちの発想が広がるように、そっと問いかけます。

すると子どもたちは考え始めました。

「飼育員はどう?」

「お客さんもいるかも!」

「別の動物もいた方がいいかもしれない。」

少しずつ場面が出来上がっていきます。

前回の記事で、非認知能力の一つに「他者と関わる力」があることを知りました。

その言葉が今、目の前で起きているようでした。

 

自分のやりたいことだけでは場面は成立しません。

友達の考えを聞きながら、自分の役割を考える。

そんなやり取りが自然と生まれていました。

 

うまくいかなくても、やめない

もちろん、どのグループも最初からうまくいくわけではありません。

途中で止まってしまうこともありました。

「どうする?」

「次なにする?」

子どもたちはその場で考え始めます。

ファシリテーターは、少し離れた場所から見守っています。

必要な時だけ問いかける。

でも答えは言わない。

すると子どもたちは、自分たちで続きを作り始めました。

 

相談して、試して、また相談する。

 

みんなで作った動物園

話し合いが終わると、いよいよグループごとの発表の時間です。

子どもたちは教室の前に立ち、自分たちで考えた場面を表現します。

 

動物園のグループの発表では猫だけではなく、飼育員もいて、お客さんもいて、いろいろな動物がいました。

発表の途中、少し動きが止まる場面もありました。

誰が次に動くのか迷ったのでしょう。

子どもたちはお互いの顔を見合わせます。

すると、すぐに誰かが動き出します。

そして、それに続いて別の子も動き出します。

場面はまた進んでいき、発表が終わると、今度は見ていた子どもたちが一斉に手を挙げました。

「動物園!」

答えが当たると、発表していた子どもたちの顔がパッと明るくなります。

自分たちが表現したことが友達に伝わった。その喜びのように私には見えました。

演劇ワークショップでは演じたことだけではなく、相手に伝わることも大切にしている。

そんなことを子どもたちの表情が教えてくれました。

▲友達と相談して作り上げた場面をみんなの前で発表

「こう見えたよ」

その後ファシリテーターはグループごとに感想を伝えていきます。

その講評もとても印象的でした。

「上手だったね」

ではなく、

「私はこんなふうに見えたよ」

「こんな場面に見えたよ」

という感想が返されます。

正解や上手さを教えるのではなく、どう受け取ったかを伝える。

人によって見え方は違う。

自分ではこう表現したつもりでも、相手には違うものに見えていることがあります。

でも、それは間違いではありません。

「私はこう見えたよ」

という感想を聞くことで、自分の表現が相手にどう届いていたのかを知ることができます。

自分が思っていた自分と、相手から見えている自分。

その違いに気づく時間でもあるのだと思いました

「静かにしなさい」が聞こえない

もう一つ、見ていてハッとしたことがあります。

それは、私が想像していたような

「静かにしなさい」

という声がほとんど聞こえなかったこと。

その代わりに聞こえてきたのは、

「今は〇〇さんがお話しているよ」

「もし自分が話している時に聞いてもらえなかったらどう思うかな?」

という問いかけでした。

子どもたちをただ静かにさせるのではなく、
自分たちの行動が相手にどう届くのかを考えるきっかけをつくっているようでした。

 

静かにすることが目的なのではなく、相手の存在に気づくこと。

この授業では、そんなことも自然に扱われていました。

授業が終わっても、まだ続いていた

授業が終わった後、先生たちとファシリテーターの振り返りの時間があります。

「あの子、今日は手を挙げたね」

「前回と少し変わったね」

そんな話が交わされていました。

授業の中で見えた子どもたちの姿は、その場で終わらず、先生との振り返りにつながっていきます。

そして、この振り返りが毎回行われていることも、豊岡市ならではの取り組みなのです。

外部のファシリテーターが授業をして終わり、ではありません。

豊岡市教育委員会が事業として実施しているからこそ、授業で見えた子どもたちの姿を先生と共有し、学校での普段の様子とも重ねながら振り返る時間がつくれるのです。

 

 

 

▲授業で見えた子どもたちの変化を先生とファシリテーターで共有する時間。教育委員会が事業としているからこその時間。

ファシリテーターは、子どもたちにとって年に数回しか会わない存在です。

いつも同じ環境で過ごしている先生とは違う立場だからこそ、思いがけない変化のきっかけになることがあるのかもしれません。

 

自分の意見を強く主張していた子が、友達の話を聞くようになったり。

発言をためらっていた子が、最後には手を挙げたり。

もちろん、すべての子どもに大きな変化が起きるわけではありません。

それでも友達と協力して一つの場面を作る中で、子どもたちはたくさんの経験をしているように見えました。

そうした小さな変化を、先生とファシリテーターが一緒に見つめている。

そこに、豊岡市の演劇ワークショップの魅力があるように感じます。

 

 

教室を出るころには

見学前の私は、

「演劇ワークショップって子どもたちが演技を勉強する授業なのかな」

と思いながら教室に入りました。

でも、教室で見てきたのは、演劇の上手さではありませんでした。

友達と関わりながら、自分で考え、迷いながらも最後までやってみる子どもたちの姿でした。

わが子を見ていても、つい「できた」「できなかった」で見てしまうことがあります。

でも、この授業を見て、その途中にある小さな動きこそ大切にしていきたいなと思いました。

発言できなかった子が、少し声を出す。

友達の話を聞いて、自分の動きを変える。

うまくいかなくても、もう一度やってみる。

そういう積み重ねの中で、子どもたちは少しずつ育っていくのかもしれません。

 

今年度の「演劇ワークショップ」は保護者の参観ができるそうです。

学校から案内が届いたら、ぜひ一度のぞいてみてください。

私自身「演劇ワークショップって何だろう?」と思いながら教室に入り、帰る頃にはまったく違う景色が見えていました。

子どもたちは楽しそうに活動していました。

でも私の印象に残ったのは、その楽しさだけではありません。

子どもたちの変化を見逃さないファシリテーターのまなざし。

「静かにしなさい」ではなく、「相手はどう思うかな」と問いかける言葉。

そして、授業が終わった後も続いていた先生との振り返り。

教室の中で起きていたことは、私が思っていた以上に丁寧に設計されているように感じました。

では、なぜ豊岡市はここまで演劇ワークショップに力を入れているのか。

なぜ「演劇」という手法を選んだのか。

次回は、実際にこの事業に関わるファシリテーターや教育委員会の方にお話を伺い、その背景にある思いや考えを聞いてみたいと思います。

この記事を書いた人

松原 寛子

豊岡市出身。
東京で歌手・ボイストレーナー・MCとして活動していた頃に、お笑い芸人だった夫と出会いました。
その後、双子を出産し、都会での子育てに奮闘する中で「やっぱり自然が身近な場所で子どもを育てたい」と思うように。

2024年5月、家族で「妻ターン」として豊岡へ帰郷。
久しぶりの地元での暮らしは、懐かしさと新しい発見の連続です。

このコラムでは、都会と豊岡の子育て環境の違いや、家族と過ごす中で感じた“豊岡での暮らしの豊かさ”を、等身大の言葉で綴っていきます。

誰かの背中をそっと押せるような、そんな記事を目指していきたいです。

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