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【豊岡で起業!第10弾】豊岡駅近で十割そば屋が開店!そばを打ち続けた女性起業家のヒストリー

こんにちは!
豊岡でカーテン屋、そして城崎で宿泊業を営む市民ライターの進藤大資です。

豊岡で起業された方をご紹介する「豊岡で起業!」シリーズ、第10弾!
今回訪れた取材先は、「そばと酒 蒔歩ubu」をオープンされた女性起業家の原田悠香さんです。

昨年、豊岡で十割そばが食べれる居酒屋がオープンしたという話を聞いて、ずっと気になっていました。アラフォーの私からすると、年々そばへの需要が高まっていて、胃もたれもしないしヘルシーで何より美味しい!と感じる年頃。

念願のお店に伺うことができたので、余すことなく食事とお話を楽しんできました。

▲JR豊岡駅東口の広場。

店舗はJR豊岡駅東口を降りて徒歩3分程度に位置しています。

JR豊岡駅を背にして駅前の横断歩道を渡り、右手に200メートルほど歩いた先にお店の看板が見えてきました。
(酒好きからすると、駅から徒歩圏内で通えるのが嬉しいポイントですね!)

▲「そばと酒 蒔歩ubu」の看板。

▲店舗外観。

「そばと酒 蒔歩ubu」
【 原田悠香(はらだゆか)さんのプロフィール 】

豊岡市日高町出身。
高校卒業を機に、大阪で料理の専門学校に入学。

その後は大阪で10年以上にわたり飲食業界で修行し、コロナ時期にUターン。
新温泉町の名店「そば処 春来てっぺん」で店長を任されながら2年半ほど勤務。

2023年10月、「そばと酒 蒔歩ubu」をオープン

なぜ、豊岡で「そば居酒屋」を?

▲グループからお一人様でも入りやすい清潔感のある店内(カウンター10席と奥にテーブル席有り。)

ー本日はどうぞよろしくお願いします!豊岡で「そば居酒屋」を始めたきっかけは何ですか?

「元々この店舗は喫茶店でした。姉妹で20年ほどお店を経営されていましたが、コロナ禍でお店を閉めるという話を母づてに聞きました。母とおふたりが知り合いだったこともあり、いち早く空き店舗情報が手に入ったんです。駅から近いですし条件も良かったので、賃貸物件としてこのお店を譲り受ける形となりました。」

ー確かに駅近でとても良い立地ですね。なぜ「そば居酒屋」だったのですか?

「わたしは高校卒業後、大阪で料理の専門学校に入学してから、10年以上飲食業に携わってきました。最初のきっかけは、家の近所にある「そば居酒屋」に入店したことです。そのお店の十割そばと料理、居心地の良さに感動し、飲食後に『ここで働かせてください!』と直談判したのが、そば道へ進む第一歩でした。その後は転々と飲食店を渡り歩いた結果、腕に自信のある十割そばと、お酒の両方を楽しんでいただける「そば居酒屋」を始めようと決意しました。」

そば屋、Bar、日本酒居酒屋、焼肉店、鮮魚店など様々な飲食業界の経歴を持つ原田さん。忙しい時は睡眠時間が3時間という仕事漬けな毎日で、早朝は市場へ魚の買い出し、ランチとディナー前はそば打ち、営業中はホールや調理を任されるというハードなルーティーン。家に帰宅するのは深夜2時だったそうです。『大変な毎日でしたが、その経験をしたおかげで技術とメンタルがかなり鍛えられました(笑)今の仕事に活かされているので感謝しています。』と原田さんは語っていました。

▲店内にずらりと並ぶお酒。「おまかせで!」と注文すれば、原田さんがお客様の趣向と料理に合うお酒を提供してくださります。

「ブラックなイメージがある飲食業ですが、幸いなことに人にはとても恵まれていました。その一つに、お酒を好きになったエピソードがあります。わたしが20歳の誕生日を迎えた際、勤務先の店長から祝い酒のプレゼントをいただきました。その時が初めての飲酒で、おそるおそる一口飲んでみると衝撃が!『え‥お酒ってこんなに美味いの!?』と感動したんです。そういった経緯からBarで6年ほど勤務した時期もありましたね。カクテルの大会へも出場しましたし、お酒の知識を増やすことに生きがいを感じていました。」

ー素敵なエピソードです!順風満帆な日々のように思いますが、なぜUターンされようと思ったのですか?

「コロナがきっかけでした。当時は淀屋橋のビジネス街でそば屋に勤めていたのですが、コロナを機に嘘のようにお客様が来店されなくなってしまいました。そばを打ちたくても打てないという歯痒い状況…どうしようかと悩んでいる時に、同じそば通仲間として信頼している女性に言われた一言で、Uターンを考え始めました。」

「田舎でもそばを打てるんじゃない?」

▲豊岡の田園に佇む特別天然記念物「コウノトリ」(出典:豊岡市フォトライブラリーより)

「そう言われてハッとしました。大阪で仕事をするのが当たり前のように考えていましたが、地元でもそばを打つことは確かにできるなと。故郷に帰って、改めてそばの勉強をしていくのも良いなと思ったんです。その結果、もし将来的に自分の店を構えることができれば、毎日大好きなそばを打つことができますしね。善は急げということで、すぐに母に電話しました。『わたし、地元に帰る!』

そう伝えると母も動いてくれて、新温泉町にある「そば処 春来てっぺん」でそば打ちの求人募集情報をわたしに伝えてくれました。」

ーそちらの店舗には実際行かれたのですか?

「はい。電話をもらってからすぐに帰省しお店に伺いました。こちらの店舗はそばの栽培から刈り取り、提供まで全て一貫して行っていて、つなぎを使わない十割そばが売りの名店です。実際食べてみると、田舎由来のそばの風味と旨さに感激し、『ぜひここでそば打ちさせてください』とお願いしました。最初はびっくりされましたが、わたしの熱意を伝えると快く承諾してくださり、このお店で2年半ほど勤めました。」

こちらの店舗で初めて、そばの栽培過程を目の当たりにした原田さん。新温泉町では、お盆過ぎにそばの種をまき、10月中旬頃からそばの実を刈り取ります。刈り取った実に付着している砂や小石、茎などをきれいに取り除き、約1日間乾燥させて袋詰めしたものを、冷蔵貯蔵庫で1年間保管するそうです。自然豊かな新温泉町で精製された「そば粉」は、起業されたお店でも引き続き使用されています。

▲そばの実を刈り取る原田さん。

起業への準備

「勤め始めてからちょうど2年ほど経った時、ここが空き店舗になるという情報を聞きました。思わぬ形で独立へのチャンスが舞い込んできたので、意を決して起業する準備に取り掛かりました。」

ー「そば処 春来てっぺん」で働きながら、同時並行で起業の準備をスタートされたということですか?

「そうですね。お店の方には将来自分の店を持ちたいという話はしていましたし、いざ独立する時はたくさんの応援メッセージをいただきました。今でもお付き合いはありますし、あの環境はわたしにとってかけがえのない日々でした。今後も何か協力し合える関係性を築いていきたいと考えています。」

ー原田さんの挑戦を皆さん応援されていたのですね。起業するにあたって具体的にどのような行動をされましたか?

「母の友人から、『IPPO TOYOOKA』を紹介していただきました。ビジネスの専門家に無料で起業相談を伺うことができる制度があることを知り、ぜひ行ってみようと思ったんです。当時のわたしは、起業すると言っても何から手をつけて良いか分かりませんでしたからね。」

▲「IPPO TOYOOKA」ではビジネス相談だけではなく、定期的にセミナー・起業家同士の交流会が開催されています。(出典:「IPPO TOYOOKA」FBベージより)

ーなるほど。相談に行かれてみていかがでしたか?

「とても良かったです!経営相談員の佐伯さんとお店がオープンするまでのスケジュールをたて、いつまでにどのようなことをしなければいけないかを整理しました。具体的には、開業届や飲食店の営業許可、そして保健所に申請するタイミングなどです。また毎月通うことで、その都度不安に思っていることや課題を相談できたのも助かりました。

そのほかには、佐伯さんから『豊岡商工会議所』をご紹介いただいたことが大きかったです。起業前の開業・運転資金が少ない状況で、起業する際に活用できる補助金があることを知り、豊岡商工会議所に申請のサポートをしていただきました。」

ご自身の努力と豊岡商工会議所の申請サポートにより、「豊岡市創業支援補助金」と「ひょうご起業家支援事業」が採択され、共に店舗の内装費用として活用し、2023年10月に無事オープンされたそうです。筆者も起業した際はこの補助金を活用し、資金面で大変助かった記憶があります。情報を知っているだけで大きなアドバンテージになり得ることは多く、原田さんのように行動力ある起業家が成功への近道なのだと感じています。

▲改装中の店内。

起業後の反響

ーオープンしてから反響はどうでしたか?

「有難いことにたくさんのお客様にご来店いただいています。学生さんやサラリーマン、女性のおひとり様など、子どもからお年寄りまで男女問わずご利用いただいています。起業前はターゲット選定が大事だという話はよく聞きましたが、わたしはあえてそれをしませんでした。『今まで経験したことを全て出し切れば、自ずとたくさんの年代の方に受け入れてもらえる。』という自信が不思議とあったんです。」

ーその自信が、ある意味イメージ通りになった訳ですね!

「そうですね。起業してからは毎日楽しいですし充実しています。もちろん事業を続けていく責任や大変さはありますが、そこも含めてやりがいを感じていますね。ここまで続けてこれたのは、周りの温かい支援があったからだと痛感しています。

開店前の準備は母親、そして営業中は定年退職した父親に手伝ってもらっています。そのほかに、豊岡芸術文化観光専門職大学生のスタッフ、困った時は手を差し伸べてくれる友人、お店にご来店くださる常連様など、たくさんのご縁でこのお店が成り立っているからです。一度都会へ出たからこそ、Uターンして改めて地元の人の温かみを感じました。お米や野菜も美味しいですし、帰ってきて正解だったなと実感する毎日です。」

▲父親と二人三脚で営業されている原田さん。父親からはお店を手伝い始めて体重が10㎏痩せたと小言を言われるそうですが、実際は楽しそうに厨房に立たれている姿が印象的でした。

十割そばを実食!

▲石臼挽き十割そば。そばにツヤがありキラキラとしています。ビジュアルだけで旨味が伝わってきますね!

「最初は塩を軽くそばにまぶし、つゆを付けずに召し上がってください。そばの風味が感じられるかと思います。その後はお好みの薬味とつゆを付けてお召し上がりください。つゆはまぐろ節から出汁を取っています。」

原田さんがおっしゃる通り、最初は塩のみで一口。そばのコシのある食感がしっかりと感じられ、噛みしめるたびに、そば粉本来の素朴で豊かな風味がじんわりと口の中に広がります。この香り高い十割そばに、まぐろ節の出汁が効いたつゆをつけるとさらに風味が引き立ち、より深い味わいを楽しむことができました。

ーめちゃくちゃ美味しいです!たくさんの方にリピートされる理由がわかりました。

「ありがとうございます。十割そばは、そば粉だけで作られていて小麦粉を一切使用していませんので、グルテンフリーです。小麦粉アレルギーや苦手な方にも安心して召し上がっていただけます。」

ー健康にも良いわけですね。そば打ちはどこでされているのですか?

「実家にある蔵を改装して『そば打ち部屋』にしました。当初はお店の中に作ろうと考えていましたが、そうすると飲食スペースが減ってしまうので、思い切って蔵を改装したんです。」

▲実家の蔵を改装中の様子。

▲改装されて『そば打ち部屋』へ。

そばを打つ=『ととのう』

「わたしはそばを打っている時が一番好きな時間です。この時は誰にも邪魔されず、日常生活など全て忘れて無心になれるからです。無心でそばを打つと自分の中で『ととのう』感覚があって、この瞬間がたまらなく好きですね。」

ーそばを打つと『ととのう』!?初めて聞きましたが、非常に興味深い感覚ですね。そば打ちって大変な作業ではないですか?

「皆さんよくそのようにおっしゃいますが、慣れだと思います。わたしは今まで十割そばのお店で修行してきたので、この製法が体に染みついています。そば打ちの工程で一番慎重になる点は、そば粉全体に空気を含ませながら水を均一になじませる『水回し』という作業です。水の量がそば粉の性質や温度、季節や天気によって変わってくるので、長年の感覚が必要となってきます。ほんの数滴、水加減が変わるだけで仕上がりが違ってくるので、自分の感覚をもとに『水回し』をしていくことが非常に大事です。」

熟練の技術を必要とするこの『水回し』。小麦粉を使用しない十割そばは、ねばり気がないため綺麗に『水回し』しないと麺がボソボソになってしまうそうです。その日のよりベストな配分を求め考えるこの工程が、原田さんにとってはやりがいであり、楽しい作業なのだとおっしゃっていました。

今後の展望

▲異業種交流会での様子(出典:「モグモグログ」より)

ー「そばと酒 蒔歩ubu」を今後どういったお店にしたいですか?

「様々な年代の方に交流の場として利用してもらいたいです。というのも、『このお店を起点としてたくさんの方が交流することで、まちの魅力の再発見・その人自身の才能を開花してほしい』という強い想いがあるからです。そこから店名は『蒔歩』と名付けました。『』という漢字は、『種をまく』という意味合いがあり、このお店で様々なきっかけの種を提供し続けていきたいと考えています。例えば、異業種交流会を開催したり、近隣の学生さんとの交流を積極的に行ったりしています。繋がりの一助となることで、豊岡のまちがより面白いと感じてもらえる『まちづくりの一因』となれれば嬉しいです。」

ー原田さんのご活躍に期待しています。本日はどうもありがとうございました!

▲人気メニュー『揚げそばがき』(上)・『クリームチーズとまぐろ節のカナッペ』(左下)・『そばチップス』(右下)。余ったそばやまぐろ節を使用し考案されたメニューで、なるべくフードロスにならない取り組みをされていらっしゃるそうです。お酒の肴としても絶品でした!

取材を終えて

原田さんとの対話を通じて感じたのは、「そばと酒 蒔歩ubu」は単なる飲食店ではなく、彼女自身の人生が詰まった場所なのだということです。大阪での長い修行、Uターンの決断、そして地元での起業、そのすべてが今のお店に凝縮され、温かい雰囲気やこだわりのそばにしっかりと反映されているのだと思います。

一番印象的だったのは、「そばを打つと、ととのう」と語った瞬間です。そばを打ちながら無心になる感覚、それはまるで日常から解放され、自己と向き合う時間なのだと感じました。そんな彼女の思いが詰まったそばだからこそ、訪れた人々を魅了するのでしょう。

地域とのつながりを大切にし、新たな交流の場を作り出そうとする姿勢は、今後豊岡のまちづくりには欠かせない存在になるような予感がしています。原田さんが「蒔歩」という名に込めた種が地域に根付き、大きな花を咲かせる日が楽しみです。

【 店舗情報 】
「そばと酒 蒔歩ubu」
営業時間:18:00~23:00(LO:22:00)平日
15:00~23:00(LO:22:00)土日祝
定休日:木曜日+不定休
TEL:0796-34-9473
住所:兵庫県豊岡市大手町2-22
SNS:Instagram

この記事を書いた人

進藤 大資

城崎温泉出身。
大学進学後、一度は都会に移住したものの、2017年に地元へUターン。
豊岡市内で、家業である「カーテン工房」(窓周り専門店)に務める傍ら、2019年度より始まった豊岡市管理のビジネス相談窓口「IPPO TOYOOKA」にて、起業相談を重ねる。
その後2020年1月より、夢であった城崎温泉で一棟貸しの宿泊施設「きのいえ」をオープンすることができました。
演劇・アート・レジャー・グルメ、そして何より魅力的な人達がたくさん集まる豊岡市。
めまぐるしく変化していく情勢を楽しみながら毎日を過ごしています!

http://curtainkobo.com/

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