夏の神鍋と私たちの仕事
夏の神鍋高原はどんなところ?
今年の夏は雨が多く全国的に冷夏だったと感じている方も多いのではないでしょうか。
私もそうでした。
「もう少し涼しくなってくれてもいいのに」と思う暑い日もありましたが、こんなに涼しいと拍子抜けしてしまいます。
私が住む神鍋高原も雨が多かったです。神鍋高原はカラッとした晴れやかな天気と、高原をそよぐ爽やかな風が似合います。
実は、神鍋高原は、スキー場がオープンする冬に忙しいイメージがあるかもしれませんが、民宿にとっては夏の方が忙しいんです。
なぜかというと、そう、夏は合宿シーズン!
神鍋高原は6月下旬〜7月中旬までは林間学校、夏休みから9月中旬までは合宿や大会で利用されるため、民宿は1年の中で夏が一番忙しいのです。
神鍋高原にはグラウンドや体育館、テニスコート、但馬ドームなど合宿に使える施設が多くあります。運動部はもちろんですが、吹奏楽部などの文化部の方も体育館や屋外などで音を出して練習されたりします。
お越しいただくのは主に京阪神の小学生から大学生まで。部活の種目ラグビー、テニス、ソフトボール、サッカー…とさまざま。
また、8月には西日本医科学生総合体育大会という、西日本全体の医大生の大きな体育大会があり、テニスとラグビーの大会が神鍋高原で開催されます。
もしかしたらこの記事をご覧の方の中にも、学生の頃に神鍋高原に泊まったという方がいらっしゃるのではないでしょうか。
神鍋高原をドライブしていると、ほとんどの家が民宿の看板をあげているのがわかると思います。
私の地区は同じ飯田(いいだ)という名字が多いので、名字で呼ばれるのではなく「志ん屋(しんや)さん!」など屋号で呼ばれることがほとんどという、民宿街ならではの習慣があります。
また、神鍋高原に唯一あるコンビニは、夕方や夜の時間帯、あふれるくらい学生でいっぱいになります。
「一体どんだけ儲けてんのやろ?」ってくらい。
それもそのはず。次に近いコンビニは、そのお店から8kmも離れています。
民宿のある夏の1日
繁忙期の夏、私たちは休みもお盆もほとんどありません。
朝早くから朝ごはんの準備。
お客様が練習に行かれると部屋の片付け、館内の掃除。
昼食が必要なお客様には人数分のお弁当を用意し、配送。
事務処理をし、買い出しをし、夕食の準備。
洗い物をすませると先生やコーチの夜食を作り、翌朝の配膳をします。
この他にもお客様の送迎をしたり、林間学校のお客様には餅つきやニジマスつかみ、飯盒炊爨(はんごうすいさん)やキャンプファイヤーなどなど。
でもこういう風に、お客様の1日に寄り添って仕事をすることが、私の楽しみであり喜びです。
こう考えるのは、小さな頃からお客様と過ごす時間が多かったからでしょう。
遊び相手はお客様?
私が小さな頃は家のお手伝いをしながら、お客様に遊んでもらっていました。人懐っこかった私はお客様に誘われて練習について行ったり、試合の応援をしたりしました。オフの時は海に連れて行ってもらったり、一緒にファミコンで遊んだり。どのマネージャーがタイプか聞かれたことも。あんなことやこんなことまで教わりました。
何十年も続けてお越しいただいているお客様の中には当時の話をされる方もいらっしゃいます。
私の進学や引越し、帰郷や結婚、娘の誕生。人生の節目ごとに「あの勇太郎がなぁ」と、驚きながらも喜んでくれます。
続いてほしい光景
神鍋高原の夏は、住んでいる村のいたるところにお客様がいるということが普通です。
そしてそんな生活が今の子どもたちにも根付いているようです。
登下校中の地元の小学生たちが、すれ違うお客様に挨拶をするのがとても微笑ましくて残したい光景です。
もちろん、いい面だけではありません。
後継者不足などの問題で維持ができずに廃業が相次ぎ、今では全盛期に300軒近くあった民宿も100軒ほどになってしまいました。
施設の老朽化や空き民宿の増加など、課題はたくさんあります。
それでも、人があふれる夏の神鍋高原の光景は、残していきたいです。
合宿に来ていた学生が大人になり、子どもを連れてまた泊まりにきてくれることがあります。
その時思います。
「あの時の中学生がなぁ」と。
驚きながらも、とても嬉しい瞬間です。
生まれたばかりの私の娘も、お客さんに成長を温かく見守ってもらいながら、すくすくと成長してほしいと思います。