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拝啓、この試みによって人生が変わるまだ見ぬ人たちへ #3

この記事は豊岡市が2018年度から実施している「ミュージシャン・イン・レジデンス 豊岡(以下『MIR豊岡』)」という新しい試みに、市民ライターの僕が少しずつ関わらせてもらう過程で見えてきたものをありのままにつらつらと書いていくものです。

2020年3月20日

市民ライターの伊木です。
兵庫県北部にたったひとつの映画館【豊岡劇場】でスタッフをしています。
 
豊岡市の取り組み「MIR豊岡」に市民ライターとして少しだけ関わらせていただくことで、どんな人たちが何をやって、何が起きているのかを個人的な目線で伝えていく予定です。
 
今回は3月20日に豊岡から配信された【MUSICIAN IN RESIDENCE Acoustic live & Talk session】直前に、Keishi Tanakaさんへインタビューさせてもらった内容をお届けします(インタビュー会場は、ライブ配信会場と同じ「とゞ兵」さん)。
 
 
まだまだ始まったばかりのこの企画ですが、
間違いないのは、このMIR豊岡という企画によって人生が変わっちゃう人が必ず出てくるってこと。
 
まずは豊岡にはそんなチャンスが転がっていることを、この記事を通じて皆さんにもお伝えしていきたいと思います。
 
Keishi TanakaさんがMIR豊岡の2020年度参加ミュージシャンに決定しました。Keishiさんを知っている方も知らない方も、ぜひこのインタビューを読んでみてください。ほぼ全文を文字起こししたので長いですが、少しだけKeishiさんのことを知ってもらえると思います。
 
はじまりはじまり

Keishi Tanakaインタビュー全文

左:Keishiさん 右:僕

伊木:お時間いただいてありがとうございます。前回蔡さんにもインタビューさせてもらったんですけど、飛んでるローカル豊岡のサイトに載せる記事を…

Keishi:読んでます。二つ目の記事も。

伊木:ありがとうございます!あれから今後に向けての話を聞いていこうかなと思っています。最初に、豊岡の人たちの中でKeishiさんのことを知らない人もいると思うので、ざっくりKeishiさんの今までのことを教えていただけますか。

Keishi:はい。今はKeishi Tanakaという名義で活動しているんですけど、それを始めたのが2012年で、それまで10年弱はRiddim Saunterというバンドをやってました。今はソロ、っていっても音源自体はバンドサウンドなんで、サポートミュージシャンを迎えてライブをする。その編成がいろいろあって3人、5人、7人、最大で11人になることもあって。最少が一人の弾き語りで。あまり形式を決めずにどこでもライブができるようにしようっていうのが最初に思ってたことでした。今回のMIRとかも弾き語りができたから誘われたのもあるのかなって思ってます。

伊木:なるほど。前回蔡さんのインタビューで「Keishiくんならいろんな人とのコミュニケーションも取れるし、適任なんじゃないか」っておっしゃってましたけど…

Keishi:蔡さんのときには【曲を作る】っていうテーマがあったと思うんですが、次のテーマは【高校生】という話が出たときに、蔡さんが「Keishiくんは適してるんじゃないか」って言ってるのを記事で見て「プレッシャーだなー!」と思いましたね(笑)。「そうかなぁ、僕もやったことないけどなぁ」って。けど人と喋ることは嫌いではないので、そういうところを見てもらってるのかなとは思ってます。あんまり大人数で何かをやっていくというよりは、ちょっと少人数でもいいので、せっかく長いタームでの企画だし、一年間かけられるのであれば、ちっちゃくてもいいのでしっかりと関係を作って、なにかを制作するなり、ライブをするなり出来たらいいなと思っています。

Keishiさんと音楽とアウトドア

伊木:前回の滞在時にKeishiさんがアウトドアの話もされてたのを覚えているんですけど、Keishiさんの中で音楽とかアウトドアとかライフワークのバランスってどんな割合なんですか?

Keishi:ライフワークのバランスでいうと99%音楽です。アウトドアはもともと趣味で山登りとかしてたのを見つけてくれたランドネっていう雑誌があって、それで連載を持たせてもらって仕事にもつながってるんですけど、もちろんそれをメインとはしてないです。「アウトドア好きなミュージシャンがいるよー」っていう感じで呼ばれているし、そっちもミュージシャンとして出ているので。比率的には99.9%が音楽ですね。
[Keishi Tanaka 連載「月と眠る」#5 少しずつ集まる小さなギア](Keishiさんの担当するランドネの記事)

伊木:なるほど。昨日だと思うんですけど、志ん屋(しんや|豊岡市日高町の神鍋高原にある宿)さんで焚き火を囲んで話してたのをSNSで見かけましたね。

Keishi:ご飯食べた後に焚き火してて。今回、神鍋高原って初めて行かせてもらって、キャンプとか山とかフィールドもたくさんあるし、僕がアウトドア好きだっていう話も前回来たときにしてたので、そういう話を拾ってくれて、焚き火以外にも神鍋自然学校の前田さんから話を聞いたりもできました。その日の夜もなんとなく「焚き火もできますけど?」「じゃあやりましょう!」って、ご飯食べた後に火を囲んで話すみたいな感じになりましたね。
 
伊木:志ん屋の飯田さんも音楽がすごく好きな方なんで、話が弾んだんじゃないかなって思ってました。
 
Keishi:そう、もともと僕のことも知っててくれたみたいで、嬉しかったです。

蔡さんからKeishiさんへのバトン

伊木:蔡さんからKeishiさんへのバトンタッチの経緯って、どんな流れだったんでしょうか。
 
Keishi:今回の映像とか企画にも深く関わっている北山さんという映像ディレクターがいて、蔡さんも僕も昔から一緒に仕事をさせてもらってるんです。ミュージックビデオ作ったりとか。蔡さんがMIRを始めるときに、北山さんから今度こういう企画をやるってことは教えてもらってて、いいなとは思ってたんですよ。それで今回第2弾をやるってなったときに北山さんに推薦してもらったのと、蔡さんとも仲良くさせてもらってるので、前回の記事では笑いっぽく言ってましたけど、「あいつは適任なんじゃないか」みたいなことを言ってもらって、繋がってったのかなぁと思います。
 
伊木:じゃあ以前から蔡さんや北山さんからこの企画について情報は聞いていたんですね。
 
Keishi:そうですね。ただ、実際に僕が参加するわけではなかったので、何かを調べたりとかってところまではいってなくて。蔡さんとも別で会った時に「なんか行ってますね。あれなんなんですか」「MIRってのがあって…」「楽しそうすね」みたいな感じで終わってて。僕がグイッと引き寄せられたっていうか、僕の中で火がついたのは、やっぱり前回2月に来たときにいろんな人と会ったり、実際に街を見てからですね。スイッチが入ったのを自分でも感じたし、ただ話を聞いて、メールで企画書の文章を読んだだけでは、なかなか難しい企画というか。内容的に。まちとの交流とかまちを実際に見て始まることだと思うので。逆にあんまり調べ過ぎなかったのが良かったのかもしれないですね。フラットな感情でまちを見てから「何ができるのか」「どんなことをしたいか」みたいなことが始まっているので。あんまりイメージだけで固めすぎるとやりにくかったかなとも思うし。2月と3月は準備段階というか、バトンを受け取る段階だというのを聞いてたので「何かをやらなきゃ」というのもないですね。逆にまちをみるというようなことを一年かけてやるつもりもないし、準備が終われば4月から実際に動き出すし。その準備の終わりが今回のライブだったんですけど、残念ながら中止になってしまって。この記事が公開されてるころには、今日の様子がすでに配信されてて、どういう風に全国の人が受け取るのかなぁとか。もちろんライブができるのが一番良かったんですけど、全国の人に知らせるチャンスができたわけで。考え方を変えてやっていけば、あんまり悲しいことでもないのかなぁとも思うし。
 
伊木:同じようにここ最近、他の企画でも配信する機会が増えてますか?
 
Keishi:もともとここ数年インスタライブとかがあって、気軽に配信してたので抵抗もないし、ライブがなくなったりしたときに喜んでもらえる方法としては有効かなと思いますね。けど、ただ単にやるってのもみんな限界もあると思うので、北山さんと一緒にやってるのもそうなんですけど(Youtubeで公開している【THREE IS A MAGIC NUMBER SHOW】)、意味がちゃんとあって、次に繋げる何かが自分の中で作れればいいかなとも思ってます。もちろんそうじゃなくて夜中に酔っ払って配信するとか。とにかく明るいお知らせとかそういうことをしたかったっていうのが、この半月くらいのモード。今はみんなそういう感情で配信とかをしてるだろうし。実際これがいつまで続くかとか、そういう準備として課金をするのかとか。そういう準備はしつつ、でももちろん普通にライブハウスでライブできるのが一番いいと思うので、その都度考えながら決定してくしかないっていうか。4月後半は今のところはやる気ではいます。ただ、この記事が公開される頃にはどうなってるか分からないですけど。
 
伊木:そうですね。ミュージシャン側の、今回だと音楽をやっているKeishiさんの中で配信という方法ってどういう印象ですか。こういう目的で使うと、こうなるよねっていうアイデアとかも含めて。
 
Keishi:あんまり正解がないっていうか人にもよるだろうし、毎週配信してる友達もいてそれもいいと思うし、未だに配信はやらないってのもいいと思うし、あんまり配信に対してこだわってる想いっていうのはないかな。今はたまたまライブができない分、意味を持ってるけどやっぱり別物ではあるし。例えば今回、豊岡のライブがなくなった残念さと、全国に配信できる喜びっていうのはどっちが良いとかではないっていうか。考え方次第だなとは思うんで。だからやっぱり配信に対してあんまり強い思い入れはないかな。そういう意味では。
 
伊木:さっきインタビュー前にも「今、世の中が暗い雰囲気なので明るくなるものだったらいいよね」っておっしゃってましたよね。
 
Keishi:そうですね。例えばSNSの使い方とか、もともと僕はネガティブなことを発信するタイプではないですけど、今こそそういうのは必要ないなと思うし、明るいニュースとか、なんでもない写真でも元気な感じとかを届けている方がいいし。この半月くらい暇だったってのもあるし、めちゃめちゃお酒の量とかも増えてたんですよ。それでインスタのストーリーズとかあげるだけで、リアクションが今までと違うというか「こんな時にありがとうございます」みたいな返信が来たりとか「ちょっとのことでもいいんだ」って思ったのはありますね。それくらいみんなが不安だってことだと思う。
 
伊木:今日これから配信やってみていろんなレスポンスが来る可能性もありますよね。今日はMIR豊岡として初めてのKeishiさんが表に出る配信ですけど、いかがですか?
 
Keishi:そうなんですよね。やっと「アイツは何者なんだ?」から、「あ、ミュージシャンだったんだ」ってなる日ですしね。嘘じゃないのを見せたいです(笑)。豊岡市内にたまに現れて、ただの散歩してる野郎なんで、今のところ(笑)。結構散歩も好きなんで、今回もいろんなところに連れてってもらってますけど、一人でも歩こうかなとも思ってて。今日もご飯を一人で食べに行ってきたんですけど、歩くときに「細い路地入ってみようかな」とか、ゆっくり見回して歩いてて、たまに「めっちゃ怪しいな俺」って思う時があるんですよ。まちに普段こんなやついるかなっていう。「別に大丈夫ですよ、なにもしないですよ」って思いながら歩いてました(笑)。

Keishiさんの中のMIR

伊木:このMIRという企画、始まったばかりですが、どういう変化をするのか、なにをもたらすのか、まだまだ無限大だと思うんですけど、いかがですか?
 
Keishi:そうですね。着地点とか終わり方とかまだ見えてない部分もある話なので、むしろ過程を楽しまないとダメかなって思ってて。話すことでまた新しいアイデアを受けたり刺激を受けたりしたいので、籠って制作するというイメージはまだしていなくて。具体的なことはこれからで、それがまた楽しみなところですね。
 
伊木:前回2月にきていただいた時から今回の滞在まで約1ヶ月間、MIRで「こんなのしたいなー」とか考えてたことってありますか。
 
Keishi:もちろんこの1ヶ月間ずっと考えてたってことはないですけど、前回の滞在の帰りの飛行機とか、その次の日とか、まだ熱があるうちにいろいろ考えておこうとメモしたことはありますね。レコーディングとかもあったんで一度離れたりしながら、「来週また行くな」ってなったくらいから、「ライブはなくなっちゃったけど行きたいなー」と思ってたし、せっかくだからもうちょっと一人で歩いたりもしたいなーとか、キャンプ好きだから豊岡で一人でキャンプするとか。今は豊岡の特徴である【合併した豊岡市】っていう感覚があって「隣町に行くんだけど、まだ市内」っていう。結構それが面白いなって思ってて、それを今一個ずつ塗りつぶしてってる感じで。まだ但東町が残ってるんですよ。ただ今回はもう行けないから、そういうのも次の楽しみでもあるし。ここまでくると全部見ておきたいっていうのもあるので、一通り見たらまたちょっと変わるかなっていうのもありますね。
 
伊木:豊岡以外の地方で滞在しながら音楽に関わる経験って今まであったんでしょうか。
 
Keishi:ツアー以外ということだと、自分で生まれ育った町でもないところに一週間滞在して曲を作ったことがあって。その時は籠って曲を作りたいっていう理由だったんですけど、出た答えが「毎日考えてることが東京にいる時と変わんない」ってことだったんですよ。だからそういうことを歌詞に書いて、「Hello , New Kicks」っていう歌が出来上がったんですけど。そいういう体験はあるけど、MIRはまたちょっと違った感覚だしな。普通のツアーで全国行くときも、僕は結構昼間はまちを歩いたりとか、ホテル、楽屋、ホテル、本番っていうタイプではなくて、打ち上げとかもしたいし、次の日の朝は喫茶店とか行ってみたりするんですけど、またそれともちょっと違うし。だからなんか初めての感覚ですね。今回のMIRは。
 
伊木:MIRっていう企画は蔡さんから始まってKeishiさんが二人目で。前回の蔡さんへのインタビューでも話が出ましたけど、市民である僕もMIRがなんなのか捉えきれてないんですよね。
 
Keishi:僕もです。ただ分かったのは関わってる人がいろんな角度から見ていて、これまでとは違うことがやりたいっていうのは分かるんですよ。例えば今年もひとつのテーマをもらってて、それに向かって動いてるので、前回の蔡さんとは違う動きになるなっていうのは分かってて。それを聞く前から同じことはしたくないなっていうのはあったんですよ。「同じように曲を作ってミュージックビデオ作って。っていうのを毎回するんですか?」っていう質問を前にもしてて、そうじゃなくってむしろ違うことをしていきましょうって感じだったから、それは共通認識になっててよかったなっていうか。それぐらい固まる前から参加させてもらってるっていうのが僕にとっては大きいですね。みんなアイデアを聞いてくれるので。
 
伊木:MIRの中で地域は地域でやってほしいことがあるんだけど、ミュージシャン側からの提案もあるともっと面白くなるんじゃないかなと思っていて。そこの掛け合わせをみんなで作っていかないといけない段階なのかなってすごく思いますね。
 
Keishi:その意識が共有できているからいい企画だし、いい町だなって思える。そういう意識の人がすごく多いというか、話してる人の周りに人の気配を感じるっていう。そういう人が多くていいなと思ってますね。
 
伊木:今日は3月で、実際は4月からKeishiさんのMIR参加年度がスタートしますが
 
Keishi:そうなんですよ、まだ始まってないんですよ(笑)。プレ期間をしっかりやってんなって思います。まだ次いつ来るのかも決まってないし、今日と明日で今後のことも探りながら、来年度の企画に繋げて行こうかなと思っています。

インタビューから1ヶ月

日本国内の状況がこの1ヶ月で激変する中で、Keishiさんはこのインタビューで言ってたように、明るい発信を続けていました。

新曲「The Smoke Is You」の配信リリース。
さらに、新型コロナウイルス感染拡大の影響で営業を自粛しているライブハウスなどを支援する企画「Save Our Place」の一環で、Keishiさんを含めた同世代のミュージシャンが参加をして「Baby, Stay Home」という楽曲を完成させ、その配信がOTOTOYにてスタートして話題になっています。
The Smoke Is You
Baby, Stay Home

どんな状況でも前向きな活動をしているKeishiさんが、MIR豊岡の参加アーティストで良かったなーと感じたし、ひとまず当面は豊岡にも来られないだろうけど、いろんな方法で新しい関わり方ができるかもしれないという可能性もあるので、今後が楽しみです!
 
KeishiさんとつくるMIR豊岡。
続報をお楽しみに。

この記事を書いた人

伊木翔

兵庫県朝来市生まれ、同県豊岡市在住。大学中退後、地元にUターン。フリーターとニートを繰り返しながら友人たちと地域密着型の野外音楽イベントを立ち上げ、主催。その後、閉館した豊岡市の小さな映画館〈豊岡劇場〉の復活に携わる。2014年の復活した劇場にて現場責任者を務め、2022年に再度休館した際に退職。現在はフリーランスとして、いくつかの事業・イベント運営に携わっている。

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