「MUSICIAN IN RESIDENCE Acoustic live & Talk session」ライブ配信レポート

こんにちは。

豊岡市日高町の神鍋高原で民宿を営む、市民ライターの飯田勇太郎です。

どこにでもいるただの音楽好きですが、そんな僕にとっても思い出に残る取り組みがありました。

関係者の1人として配信現場に行かせていただいた「MUSICIAN IN RESIDENCE Acoustic live & Talk session」の様子をお届けします。

スタンバイ

3月20日

配信数分前、準備完了

会場には出演者、配信スタッフと今回のミュージシャン・イン・レジデンス豊岡(以下「MIR豊岡」)に関わった方々が数名、インターネットの向こうの視聴者を想像して開始時刻を待っていた。

アーティストのみなさんと目が合い、会釈をすると、ニコッと笑い手を振って応えてくれる。道端で友達に会った時のようなやりとりだ。

ライブが行われる予定だった配信会場は、豊岡の中心にあるカバンストリートの端にある「とゞ兵(とどひょう)」。

かつての老舗料亭を再利用した建物。舞台付き70畳の大宴会場に数台のカメラや音響、配信機材が並ぶ。

カウントダウンが始まる。

16時、配信スタート。


イベント「MUSICIAN IN RESIDENCE Acoustic live & Talk session」の模様が、豊岡市公式You Tubeチャンネル「Toyooka City Office」でライブ配信された。
当イベントは観客を入れてのライブが予定されていたが、新型コロナウイルス感染拡大防止のため中止、ライブ配信となった公演。
出演アーティストは、MIR豊岡の昨年度の参加アーティストである蔡忠浩さん(bonobos)と今年度から参加されたKeishi Tanakaさん。
配信では同会場で繰り広げられたお二人の演奏と、MIR豊岡のクリエイティブディレクションを務める北山大介さんを交えたトークセッションが届けられた。
MIR豊岡についてはこちら


 

トークセッション第一部

左から、北山さん、Keishiさん、蔡さん

北山さんが中心となり、トークセッションが始まる。

それぞれの自己紹介、前日の夜や当日の朝をどう過ごしたかなど、緩やかにスタート。

2018年から開始したMIR豊岡について、当初から関わる蔡さんに話が振られると、蔡さんは豊岡に対する思い入れや、昨年永楽館で行ったライブのこと、今なお続く豊岡への興味などを語ってくれた。

また、蔡さんは福井県敦賀市にご縁があり、同じ日本海側に位置する豊岡市に親近感を感じ、違和感なく過ごせているとのこと。そしてこの取り組みや豊岡の話を別の場所でもするので、他のアーティストの間でも少し話題になっているようだ。

Keishiさんは今回、前乗りをして豊岡のあちこちを回りその様子を発信。その様子を見ていた蔡さんから「嫉妬されているのを感じた(笑)」と笑って話した。

Keishi Tanaka ライブスタート

ステージ中央に設置された椅子に腰を掛けて、アコースティックギターを爪弾く。

豊岡では初ライブのKeishiさん、挨拶代わりの1曲目「秘密の森」でライブをスタートさせる。跳ねたリズムに乗せ温かい歌声が響く。腕をまくり、ギターを抱え、足を組み、靴下姿の足元でリズムを刻むKeishiさんの姿が、あまりにも近い。

続けての「冬の青」では軽快に心地よい演奏が会場を包み、配信の先からも楽しまれているコメントが届き始める。

「冬はもう終わりということで春の曲を」と紹介し3曲目の「Floatin’ Groove」へ。

ライブ配信が行われた3月20日は春分の日。
この日、豊岡市では今シーズンの松葉ガニ漁が終了した。今年は暖冬のため、冬から春の変わり目に気づけずにいたのかもしれない。窓の外は暖かな陽気。Keishiさんの爽やかな歌声が春を教えてくれたようだった。

ソロ活動を開始し、初めて作った「夜の終わり」では、自身の経験を元に「新しいことを始めると否定的な意見を言う人もいるけど、やってみたらなんとかなるし、進んでいくことがあるよ」と、豊岡の高校生へ向けたメッセージも届けた。

「今ノッてきてるので、もうちょっとやらせてもらおうかな(笑)」とMCを挟み、北山さんがMVを手掛けた「This Feelin’ Only Knows」、最新アルバムの表題曲「Breath」と多彩な楽曲の数々と表現力で聴衆を楽しませる。

最後の曲を始める前に「この企画(MIR豊岡)に関わらせてもらって、今から歌う曲をテーマにやることを考えていこうかなと思っている曲です」と語り、「あこがれ」が歌われる。

歌い出しの歌詞はこうだ。
「始まりの時が来て 今日までのあこがれが溶けていく 遠くから聞こえる風立つ度に 祝福の鐘を鳴らす この街の全てが」。

ひと言ひと言を大切に思いを乗せる。

MIR豊岡によって、この街に住む人々の人生が変わるかもしれない。

同曲のラスト「君と君が住むこの街を」と歌う場面でKeishiさんは、顔を上げ僕たちを見ていた。

トークセッション第二部

Keishiさんと入れ替わり、蔡さんはステージへ。
蔡さんに代わり北山さんが突然呼び出したのは、会場に来ていた小谷さん。

Iターンで移住し豊岡市竹野町で暮らしている。ライブの前日にKeishiさん、北山さんに竹野を案内していた。

2人とも、訪れた竹野のきれいな日本海と展望台からの絶景に感動し「こんな綺麗な海が見れると想像してなかった」と話す。

竹野の暮らしについて知りたいと、小谷さんに移住のきっかけや竹野の食べ物について尋ね、興味津々に聞いていた。

Keishiさんと小谷さん(竹野地域 ジャジャ山公園からの景色)

蔡忠浩 ライブスタート

蔡さんの準備が整い、ライブがスタートする。

冒頭の挨拶では昨年のMIR豊岡の思い出を語り、「Keishiくんにバトンタッチした後に急に豊岡との関わりがなくなるのは僕自身が不本意なので、何としてでもスケジュールにねじ込んでもらおうと思います。」と話すと、関係者からは歓迎の拍手が起こった。

1曲目は蔡さんのソロアルバムより「気比の松原、残暑のベロア」。福井県敦賀市の“気比の松原”について歌った曲で、豊岡の海辺の風景がよく似ているそう。昨年の豊岡でbonobosとしてバンド形式でライブした時とは違い、ステージにはアコースティックギターを抱えた蔡さん一人。存在感のある声で歌い上げる。

「次はカバー曲を2曲ほどお聴きください」と始めたのは、キセルの「ハナレバナレ」、そしてYUKIの「恋人よ」。しっとりとした2曲を愛おしそうに歌う。
ぐっとムードも深まり、日はほんの少し傾き始めた。配信会場はリンとした空気に変わり、その空気感は視聴者にも伝わったのではないかと思う。

続いて披露されたのは自身のバンドbonobosの楽曲「春のもえがら」。
先ほどとは打って変わって疾走感のある楽曲。晴れやかなメロディに撮影をしている北山さんも楽しそう。ライブ配信の向こう側にもその様子が伝わっているであろうコメントもどんどん届いてくる。

MCを挟む。トーク中にもカニの話題はたくさん出ていた「豊岡に来てズワイガニはいただいたけどセコガニはまだいただいていないので、また冬のシーズンになったら今度はセコガニを中心に攻めていきたい」と、まだまだ豊岡の楽しみを忘れない。

続いて演奏されたのはソロアルバムより「遠来」。生き生きとした歌詞と力強い演奏に僕たちの心も弾む。

「豊岡のいろんな場所に何日か滞在して何ヶ所かで弾き語りライブやりたいですね、どうですか、そうすると豊岡に合法的にくる理由が生まれる(笑)」と豊岡への愛を覗かせた。

ラストを飾ったのは西岡恭蔵の名曲「プカプカ」。朗らかな曲調で会場は多幸感に包まれる。音楽の持つ力。
この瞬間は、数日続くコロナウイルスによる閉塞感を忘れさせてくれた。

トークセッション第三部

MIR豊岡について語る中貝市長(左から3番目)

イベントはまだ終わらない。北山さん、Keishiさん、蔡さん三人で最後のトークセッション。今後の配信の内容を伝えたのち、ゲストを迎える。マイクが渡されたのは豊岡市の中貝市長。「MIRの企画に対してどう思われていますか」という問いに対して、こんなことを語ってくださった。

「今日の意味ってあると思うんです。ウイルスの話になるんですが、“こんなときこそアートだ”と思います。アートを止めてはいけない。音楽を止めてはいけないという感じがします。
去年豊岡市民になられた劇作家の平田オリザさんも最近盛んにこう言われています。『自分たちは若いアーティストを守らないといけない。(コロナウイルスなどの影響により)公演がいっぱいキャンセルになって若い才能が潰されていったときに100年後の人たちに届けるものがない』と。
2004年10月、豊岡の大水害の時には豊岡市民37人がバスの上に乗って朝を迎え生き残ったという奇跡的な話があります。あの時に60代、70代の人たちがバスの上でいつ自分が死ぬかわからない時に歌をうたって凌いだんですね。最初に歌ったのは“上を向いて歩こう”。その後いろんな歌をみんながうたっていったんです。その歌は多分その人たちが若い頃に作られた歌で、それがあったからこそああいう困難な状況の中で耐えることができた。
まさに“こんな時こそアートだ”ということだと思うんです。そういう意味でも今日Keishiさんと蔡さんの音楽を聴いたということは、このMIR豊岡をやっていて良かったなと思いますね。」

三人は頷きながら聞いている。
北山さんが「こういう苦しい状況の時に文化・芸能に対して豊岡市が力を注いでくださるのは僕らからすると本当にありがたいことです。」と答える。

「今度はぜひ高校生なんかももっと絡んでもらって、自分たちがこの街の一員として役立っているという経験をみんなが持ってくれたらなと思います。」と、市長。

“この試みによって人生が変わるまだ見ぬ人たち”が、どこかにいるんだと感じさせてくれた。

Keishi Tanaka・蔡忠浩 セッション

「今度は豊岡でお客さんの前でライブができるよう力いっぱい関わっていきたいと思います」と、最後の曲が演奏される。
ラストを締めくくる曲は、お互いがそれぞれカバーをしている、ザ・なつやすみバンドの「せかいの車窓から」。

個人的にも大好きな曲。
ノスタルジックなメロディにつられ、いろんな思いが頭をよぎる。

僕がUターンをして地元に帰って来たのがおよそ10年前。
その当時、豊岡市は音楽に不自由だった。
聴きたいCDが買えない。バンド演奏をする場所も友人もなかなかいない。
ライブは車で何時間もかけて京阪神に行き、その日のうちに帰ってきた。

今も大きく変わったとは言えないが、変化は起きつつあるのかなと、MIR豊岡を通して感じることができた。

Uターンから10年の月日が経ち、目の前で昔から憧れていたアーティストが演奏をしている。
都会ではなく、ここ豊岡市で。

ライブの2日前、Keishiさんと北山さん含む撮影スタッフの方々が、僕が経営する民宿に泊まりにきてくださった。焚き火を囲み、話をした。

Keishiさんと僕

こんな未来が待っていたなんて。都会にいた頃よりも自分が豊かに思えた。
豊岡を伝えられる立場でいて良かった。

同じように考えている人もどこかにいるだろう。配信を見た誰かの人生も変わるかもしれない。

そんなことを思い、最後の曲を聴いていた。

この記事を書いた人

飯田 勇太郎

実家の民宿のあとつぎ。
高校まで豊岡市で過ごし、大学進学とともに神戸へ。大学、就職を経験し、地元である神鍋にUターン。
その後、旅行会社に就職し、30歳を機に家の仕事をつぐ。
趣味は音楽鑑賞、ライブ鑑賞。

http://www.4n8.jp

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