玄武洞×音楽『岩音』スペシャルライブの魅力
玄武洞の神秘
ライトアップされた玄武洞
こんにちは!市民ライターのkazmyこと傳川一美です。
今回は玄武洞で毎年開催されているイベント『岩音』スペシャルライブについてご紹介します。今年の『岩音2025』のライブレポートをメインに、これまでの岩音についても振り返って、その魅力に迫ります。その前に、まずは玄武洞がどんなところなのか簡単にご紹介しましょう。
玄武洞は兵庫県豊岡市にあり、約160万年前の火山活動によって形成されました。玄武岩の柱状節理が特徴です。国の天然記念物に指定され、山陰海岸ジオパークにも認定されています。現在は『玄武洞公園』として管理されており、ガイドさんのお話を聞きながら見学するとより楽しめます♪
石柱がつくり出す圧巻の風景を眺めながら耳を澄ますと、鳥や虫の鳴き声、列車の汽笛、木々のざわめきが聴こえてきます。後ろを振り向くとそこには円山川が。その向こうに山々と空が見えます。この玄武洞公園では、石と時間が織りなす美しい自然の神秘に触れることができ、『岩音』の開催時期には、期間限定でライトアップされるのも醍醐味のひとつです。
岩音2025 スペシャルライブ~君島 大空~
リハーサル時点のステージ(雨天のため屋根がセットされていた)
そんな神秘的な場所、玄武洞で今年もスペシャルライブが行われました。
今回は『岩音2025スペシャルライブ~君島 大空~』と題して2025年10月4日に開催。
君島 大空(きみしま おおぞら)さんは、音楽家/ギタリストで2019年以降、2枚のフルアルバムと4枚のEPをリリースしています。今までの作品はどれも自宅録音を基盤に、ミックスまでご自身で行っています。2023年9月にリリースされた2ndアルバム『no public sounds』はAPPLE VINEGER-Music Award-で大賞を受賞しました。2024年6月、tiny desk JAPANに合奏形態で出演されたのが記憶に新しい、という方もいらっしゃるかもしれません。独奏、合奏形態、トリオを軸に活動されていらっしゃいますが、今回の『岩音』では独奏でのご出演。それはもう・・・最っ高なライブでした!
当日リハーサルが始まる頃まで、雨が降ったりやんだりでステージには屋根がセットされていました。君島さんは音の響きを丁寧にチェック。音響さんとのスムーズなやりとりでリハーサルが終わりました。
開場時間になると空が晴れてきました。やっぱり屋根無しで見たい聴きたい。スタッフは雨雲レーダーをチェック。天は味方をしてくれたようです。開演直前に「屋根を外そう!」ということになりました。やったー!
夕暮れに独奏、開演
photo by トモカネアヤカ
屋根も外れ完璧なロケーションでライブスタート。儚く優しい声とギターの音色が玄武洞の空間に溶けていきます。歌詞に❝夕暮れ❞という言葉が出てきました。時間の流れ、空の色の移ろいにまるで合わせているかのように、即興を織り交ぜながらストーリーが紡がれていきます。奏でるギターとエフェクトと言葉とメロディを即興で組み合わせる神業、今私たちはすごいライブを見ている、聴いている。そこにいるみんなが君島ワールドに吸い込まれていきました。
夕陽に染まる頃、最初のMCで
「私の後ろにはすごいビジュアルの・・・怖くてちょっと振り向けない・・・(笑)」
と言いつつ、この空間を味わっているかのように歌い出したのが ♪世界はここで回るよ~
虫の声、木々のざわめき、列車の警笛の音。まるですべてが音楽になってゆくようでした。
photo by トモカネアヤカ
後半ではこんなMCも。
「真っ暗。居なくね?楽しんでますか?雨男なんで天気持ってくれてよかった。都会ではこんなに暗くなることない。僕は東京でも西側、川や山が近いとこで育った。地元みたいで落ち着く。なかなかこんな一人でゆったりやらせていただくことないので、とても楽しいです。音楽だけで会える人や場所があって、なれない自分がいて、何の根拠もなく生きてきた。そういう曲ばかり作って。ロマンチックだけじゃなく。」
本編ラストナンバーは『Lover』♪天使になんかしないよ~
静寂から呟くように歌い出す。次第に熱く激しくなっていくギターと儚い叫び。最後はマイクを通さずに、繰り返す声が玄武洞に響いていきました。
❝ずっと抱きしめていて❞
なんていとおしいアーティストだろう。才能の塊。なのにどこか近しく感じる。
圧巻の本編のあと鳴りやまぬ拍手でアンコールもたっぷりと繰り広げられ、『岩音2025』は幕を閉じました。
君島さんへインタビュー
photo by トモカネアヤカ
感動冷めやらぬ本番直後。楽屋にて君島さんへインタビューをしました。
―お疲れ様でした。本当に素敵でした。玄武洞は初めてですよね。いかがでしたか?
ありがとうございます。はい、豊岡も玄武洞も初めてです。なんか後ろに岩窟の入口がある状態で、見えてないんですけど気配がすごすぎて。それが不安に変わるかなと思ったんですけど、結構それが安心に変わるというか・・・後ろにいてくれてる感じがしました。写真とか事前に送ってくれてたんですけど、二次元情報だと全然実態がわからなくて。自分で歩いてみながらこう・・・やっとこの柱状節理の構造が見えて。全部そうなんですけど、行かないとわからない事があるじゃないですか。本当にそれの最たるひとつだなと思って。心地よかったです。
―響きは普通の野外のライブとは違いましたか?
違いましたね。色んな要因があると思うんですけど、一番はこのイベントの音響の東(あずま)さんが、ずっとやっていらっしゃるので玄武洞に慣れてるっていうのが良かったです。僕、リハーサルの時テント(屋根)あったんですけど、本番外したんですね。それだけでやってる側として聴こえ方が全然変わるんですね。それもナイスな感じで大丈夫でした。ノンストレスで。ほんとに自分の部屋でやってる感じ。(暗くて客席が見えないから)暗い海に向かってやってるような。みんな聴いてますか?いなくてもいっか!それくらい(笑)それも面白かったです。
―曲の順番、構成ははじめから決めていらっしゃるんですか?
決めつつも、やりながらちょっと変えました。作ってない歌を即興でどんどん歌って、作った歌に繋げてっていうのをやって。
―もともとある歌に、その場で浮かんできた歌を即興で入れて繋げるってことですね。素敵!
なんかこう今日は、アンコール以外の本編は『一筆書き』にしたくて。
場所の力を借りないといけない部分が私は強いんですよね。だからその場の空気感を見ながら、次の曲こう書いたけど・・・ちょっと即興入れます(笑)という感じで
―だからですね。日が暮れて赤くライトが照らされてからの ♪たたそれだけが愛しい~ とか
あー!それは即興ですね
―そうなんですね!流れや言葉がすごく時間の流れにマッチしていてめちゃめちゃ良かったです!
良かったです。ありがとうございます。
―リハーサルの時に「このまま放っておくと僕ずっと弾いてるよ」と仰っていましたが。
そうなんです。指の先の『手』みたいな感じで、放っておくとずっと弾いてます。
―音楽を奏でる事は君島さんにとって幸せな事ですか?
幸せと言うよりも当たり前、なんですよね。でも嬉しいですね。ほんと自信ないんですよ、僕。なんかこう、大勢の人に聴いて欲しい、みたいな感じがあんまりなくて。自分のアイデンティティとしてやってる部分がすごく強いので、それで今日、ね。こうして豊岡の人が集まってくれる、というのが一番幸せかもしれないですね。
―自信がない・・・?才能の塊なのに。でも、ゆえにみんなの共感を呼ぶのかもしれないですね。
なんか感慨深かったですね。豊岡にはゆかりがあるわけではないので、来てくださって・・・なんか問い詰めたいですね。「なんで来たんですか?」ってひとりずつ聞いてみたい(笑)
―みんな「大好きだから」って答えると思います(笑)『魔法』という言葉が何度か歌詞の中に出てきましたが、今夜は私たちが魔法にかけてもらったような、素晴らしい時間をありがとうございました。
ありがとうございました。
岩音の仕掛人はこの方です!
株式会社THREE IS A MAGIC NUMBER 代表取締役 北山 大介氏
毎回『岩音』にはこの場所にとてもよく似合うアーティストがやって来ます。その顔ぶれたるや、驚くほどにスペシャルです!毎回とびきりなアーティストを玄武洞に呼んでくださっているとびきりなセンスの持ち主は、どのような方なのかしら?と以前から気になっていたのです。
『岩音』プロデューサーの北山大介さんは、あのSpitz(スピッツ)などのミュージックビデオを手掛ける音楽✕映像のプロです。豊岡市の様々なコンテンツも長きに渡り手掛けてくださっています。そんな北山さんに、岩音2025の翌日、お話を伺いました。
-まずはきのうの岩音2025、お疲れ様でした。最高でした!『岩音』をプロデュースするようになったきっかけからまず教えてください
最高でしたね!主催の豊岡市とはそもそも10年ほど前からのお付き合いなんです。それこそ『飛んでるローカル豊岡』の立ち上げなどから関わらせていただくようになりました。
兵庫県豊岡市 移住定住プロモーション「飛んでるローカル豊岡~Think Local,That’s Global~」 – YouTube
その頃から「音楽を使って何かコンテンツを作ることができないか」とずっと言い続けてきました。もともとミュージックビデオの制作など、音楽に映像をつける仕事をずっとしてきたので、様々なアーティストさんとも繋がりがあります。豊岡市からお声がけをいただき『ミュージシャン・イン・レジデンス豊岡』という形で、近しいミュージシャンの方に豊岡に来て活動していただいたり、高校生たちと一緒にコンテンツを作ったり、『音楽と豊岡市』という活動を『岩音』よりずっと前から続けてきました。その中で豊岡市との関係が深くなっていき、玄武洞公園のリニューアルと共に、この企画が立ち上がりました。玄武洞がリニューアルされた時、なんとなくこう段差ができて、ステージみたいな作りになったんですよね。それを見た時に「ここでライブをやれたら面白いですね」と話したところからスタートしました。
―これまで『岩音』に出演されたアーティストさん、みなさんとても玄武洞にマッチしてますね。それぞれ面識はあったのですか?
今までお世話になったアーティストさんや、直接お会いしたことはなくても人を介して何かしら繋がりがある方で「玄武洞でやったら本当に素晴らしいのではないかな」と感じるアーティストさんにお声がけをしています。どなたでもハマるとは思わないので、そこのチョイスはしっかり見極めながら。やっぱりその場の空気感に沿う方にお願いして今までやってきました。
-私は豊岡に移住して2023年の青葉市子さんの回から毎回拝見しておりますが『岩音』で初めて知るアーティストさんもいらっしゃいました。新たな音楽に出会わせてくださる。それでファンになる。そのチョイスが毎回素晴らしいなと感動します。
そういう素晴らしいミュージシャンの方が近い距離にいらして、お仕事などで関わらせていただいたり、ライブを拝見したりしてきた中で、やっぱりあそこにこう・・・(目を輝かせて)
「自分自身があそこ(玄武洞)で聴いてみたい!!」と思う方にお声がけしています。
岩音2023 青葉市子さんのセッティング
-これまでどのようなアーティストさんが玄武洞でのスペシャルライブに出演されたか、改めてご紹介いただけますか?(かっこ内は、kazmyのつぶやき)
〇2022年は3日間開催
*1日目 熊谷 和徳 氏
(2021年の東京オリンピックでタップダンスのパフォーマンスをされた方です。見たかった―!)
*2日目 奇妙 礼太郎 氏
(見に行かれた市民のみなさんから素晴らしかったと聞いています。奇妙 礼太郎さんと玄武洞…絶妙なマッチング。見たかった―!)
*3日目 坂本 美雨 氏
(台風で中止になったそうです。そんな事もあったのですね。美雨さん&玄武洞も想像するだけでグッとくる…!)
〇2023年 青葉 市子 氏
(環境をテーマにしたトークイベントもあり。農業マルシェも同時開催。青葉さんが虫や鳥の声に耳を傾けながら歌っていらっしゃるのが本当に素敵でした。歌声が空気にとけていくようでした。記念に青葉さんの環境に配慮したグッズも買ってサインもいただき、すっかりファンになりました)
〇2024年は2回開催
*Vol.1 後藤 正文 氏(ASIAN KUNG-FU GENERATION) ※通称アジカンのゴッチ
(気候変動・地域社会・農業をテーマにしたトークイベントや有機野菜などのマルシェもあり。アジカンのライブが太陽光発電で行われているという事実に感動。昼間は晴れていたけれど、ライヴ途中から土砂降り!でもまっすぐ胸に届くゴッチさんの歌声、最高でした!ゴッチさんがライブ中、玄武洞の音の響きを堪能している様子が印象的でした)
*Vol.2 カネコ アヤノ 氏
(遠方からも多くの方が来てくださいました。客席後ろの立ち見では見えないほどで、私は脇の山肌から見てました笑。もともとファンだったのでまさか豊岡で、しかも玄武洞で、あの残酷なまでに無垢な歌声が聴けるなんて!と感慨もひとしおでした)
~以下北山さんからのコメント~
毎回テーマに沿って時代に合わせスタイルを変えながら、アーティストさんの興味と豊岡市のニーズもマッチさせて実施してきました。アーティストさんに来ていただくことによって、ファンの方が豊岡に来てくれて、玄武洞や豊岡という町のファンになっていただくのが一番の狙いです。知っていただく、触れていただく、足を運んでいただくことがこのイベントの目的なので、すごく多くの方に豊岡へ来てもらって嬉しいなと思っています。
photo by トモカネアヤカ
-今回の『岩音2025~スペシャルライブ君島 大空~』のテーマは?
今回君島さんを呼んだのはストレートに「あの場所で君島大空を、僕が見たい!」と思ったからです。あの場所にハマるアーティストとして自分が一番見てみたいと思っていたのが君島さんだったんですよね。今までご縁は無かったのですが、岩音2024のライブが終わった時にゴッチさんが「あの場所で君島くんのライブ見れたらいいかもね」と呟いていたんですよ。それで「え!?」と思って(笑)「本当に繋いでもらってもいいですか」とお願いしたんです。アーティストがアーティストを呼ぶ、じゃないですけど、そういう形の流れができたのも良かったですね。
それから山陰地方となると、なかなか足を運びにくいところではあるので、初めて来たというアーティストさんが多いんですね。僕らはお客さんだけでなく、アーティストさんもここを知って好きになってくれて、こっちの方でまたライブをやってくださったりとか、繋がっていくことができているのが嬉しいです。噓無く本当に「また来るね」と来てくれる、そこにやりがいを感じます。
-アジカンのメンバー伊地知 潔(いじち きよし)さんが今年の豊岡演劇祭のナイトマーケットでカレー屋さんをやってましたね
そうそう(笑)潔さんがやってくださったりとか。『岩音』だけでなく『ミュージシャン・イン・レジデンス』で来てくれたバンドbonobos(ボノボ)の蔡 忠浩(さい ちゅんほ)さんや、田中 啓史(たなか けいし)さんも、すごく豊岡のファンになってくれてソロのライヴを豊岡でやってくれたり、なじみのお店ができたりして繋がっていく、僕を通り越して地域に入ってきてくれている、そういう流れが嬉しいですね。
photo by トモカネアヤカ
-君島さんに玄武洞の音響はどうでした?と聞いたら、玄武洞の事をよくわかっているPAさんですごく良かったと仰っていました。
年々ノウハウが高まってきました。PAの東 岳志(あずま たけし)さんは『岩音』に関わる遥か昔、20年くらい前に玄武洞に来てフィールドレコーディングをしていて、この場所でライブをやったらすごいことになると思っていたらしいんです。
岩音2023の時、東さんがセッティングした環境で演奏している青葉市子さんのライブを聴いたら素晴らしかったんです。玄武洞が持つポテンシャル(潜在的な力や可能性)を引き出す力がすごかったんですよね。もう玄武洞が鳴ってる、という感じで。これはもうこの人だ!と。「来年予算が取れるかまだわからないですけど、またお願いしてもいいですか」と頼んだら「願っても無いことだ」と仰ってくださって。そこからは毎年やっていただいてます。土地に理解があってポテンシャルを引き出せるということは、ものすごく価値があることだと思っていて、アーティストさんからも素晴らしいサウンドクリエイティブでしたと言ってくださることが毎年続いているので、東さんでないと引き出せないと思います。
-それを繋いでいらっしゃるのが北山さん。そこが北山さんの魅力なのだと感じます。今後も玄武洞や、但馬全域で様々なイベントが見られることを期待しています。
ありがとうございます。そうですね、そうやって広がっていけるといいですね。
-今後豊岡で何か楽しみにしていらっしゃることはありますか?
『岩音』はまだ可能性があると思っています。いわゆるフェスのような感じで、一日使って青龍洞と玄武洞、2ステージで交互にやるとか。アーティストさんを連れていくと「青龍洞の響きがめっちゃいいよね」って言うんです。玄武洞とまた質が違うので、また東さんに青龍洞のポテンシャル引き出してもらって(笑)そういうイベントが開催できたらいいですね。
-めちゃめちゃいいですね!今日はありがとうございました。
ありがとうございました。




